(聞き手 森 永輔)

米民主党の大統領候補指名争いが3月17日、中盤の1つの山場を迎えました。フロリダ、イリノイ、アリゾナという大票田(代議員数は219、155、67)での予備選です。いずれもジョー・バイデン前副大統領が勝利しました。これによって獲得代議員数はバイデン氏が1180人(日本時間3月19日午前7時現在)、バーニー・サンダース上院議員が885人となりました。この結果をどう評価しますか。
藤崎:民主党の大統領候補はバイデン氏でほぼ決まりと見てよいでしょう。今後、サンダース氏が挽回できる機会はなさそうです。

元駐米大使、中曽根康弘世界平和研究所理事長
1947年生まれ。1969年外務省に入省。駐米公使、北米局長、外務審議官、駐ジュネーブ国際機関代表部大使(国連・WTO)などを経て、2008年に駐米大使。2018年から現職。(写真:加藤 康)
この日の開票の概要が判明したのを受けてバイデン氏が行った演説からは、サンダース氏に撤退を勧め、民主党の統一に軸足を移そうとする姿勢が垣間見られます*。「国民皆保険をめぐり意見の衝突はあったものの、共通点の方が多い」ということを強調しました。新型コロナウイルス感染が拡大するのを受けて、サンダース氏が国民皆保険の必要性を訴えたのに対し、バイデン氏は非常事態である今は同ウイルスに関連するすべての医療行為を無償にする措置が適していると反論していました。
ジンクスは当てにならない
3月17日で30の州・地域の予備選および党員集会が終わり、2233人の代議員が決まりました。総数3979人のおよそ6割です。これまでの結果から、ドナルド・トランプ大統領と争う本選に向けて、どんなことが読み取れるでしょうか。
藤崎:1つは、ジンクスは当てにならないということです。バイデン氏が緒戦のアイオワ州で振るわなかったことから、その勝利を危ぶむ声、果ては撤退まで視野に入れる発言があちこちで見られました。2000年以降に行われた民主党の指名争いにおいて、指名を勝ち取ったすべての候補が同州で勝利している、とのジンクスに注目してのことです。こうしたジンクスは、過去にそういう傾向があったというだけのことで、これからのことを展望する上で役に立つものではありません。
ジンクスよりも、米国の国民や政治家が持つ「勝ち馬に乗る」性向の方が、選挙の行方を左右します。2月29日に行われたサウスカロライナ州の予備選でバイデン氏が首位を獲得し、息を吹き返すと、3月3日のスーパーチューズデーを前に、他の候補者の撤退と「バイデン支持」表明が相次ぎました。
ピート・ブティジェッジ氏の撤退は鮮やかでした。3月1日、いの一番に撤退することで、バイデン氏に自分を高く売りつけることに成功したと思います。バイデン氏が示した感激の度合いは、エイミー・クロブシャー氏の撤退(翌3月2日)に対するものの比ではありませんでした。
バイデン氏は、撤退どころか横綱相撲を取っている、と見て差し支えないでしょう。アイオワ州とニューハンプシャー州はブティジェッジ氏らが総力を注入していたので、費用対効果比という観点で初めからある程度(勝負を)投げていたのでしょう。アイオワ州もそれに続くニューハンプシャー州も、代議員の数はそれぞれ41と24で、落としても大きな影響は及ぼさないのです。
Powered by リゾーム?