
北朝鮮で2019年3月10日に、中央議会である最高人民会議の第14期代議員選挙が実施された。建国以来、14回目の選挙である。しかし、極めて異例な結果が発表された。当選した687名の代議員の名簿が発表されたところ、そこに、北朝鮮の最高指導者である金正恩(キム・ジョンウン)の名前がなかったのだ。北朝鮮の支配政党である朝鮮労働党のリーダーが、最高人民会議の代議員に当選しなかったのは、史上初めてのことである。
前兆はあった。中央選挙委員会は、第14期最高人民会議代議員選挙を3月10日に実施すると1月8日に発表。さらに3月7日には、すべての選挙区に代議員の候補者を登録したと発表した。しかし、この時も、金正恩を候補者として登録したと発表してはいなかった。
前回の第13期最高人民会議代議員選挙と比較すればよく分かる。2014年3月9日に実施された第13期最高人民会議代議員選挙では、翌10日に第111号白頭山選挙区で金正恩が「推戴」(当選)されたと発表された。先だって、金正恩が第111号白頭山選挙区に代議員候補者として登録されたことを中央選挙委員会が2月19日に発表していた。金正恩だけではなく、歴代の最高指導者は候補者登録と当選が逐一発表されてきた。
今回それがなかったのである。つまり、そもそも金正恩は選挙の候補者として登録されていなかったことになる。いかに異例であるかが分かるであろう。
このままでは金正恩は、最高人民会議代議員だけでなく、政府(国家)の執政長官である国務委員会委員長の職務も失うことになる。北朝鮮の執政長官は現在まですべて、最高人民会議の代議員から選ばれてきた。金正恩が選挙を通じないで執政長官になれば、諸外国で揶揄されてきたように君主制(王朝)になってしまう。それは朝鮮民主主義人民共和国ではなくなることを意味する。
ただし、国名を維持しながら、金正恩が政府の執政長官になる方法が一つ考えられる。それは現在の議院内閣制から大統領制に移行することだ。もちろん、そのためには憲法改正が必要になる。新たに当選した最高人民会議の代議員による第1次会議が4月に開催されるはずなので、おそらくそこで憲法を改正するのであろう。そして、新たに大統領選挙が実施され、直接選挙によって「推戴」された執政長官である金正恩が誕生することになると考えられる。
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