「隔離」の語源は、ベネチアが取った黒死病対策

 欧州で新型コロナウイルス感染者が圧倒的に多いイタリアは、14世紀に黒死病がまん延したときにも極めて甚大な被害を受けている。当時、イタリアという国は存在しなかったが、ベネツィア(以下、ベネチア)やフィレンツェなど貿易で栄えていた都市は、とりわけ被害が大きかった。地中海を隔てて中東と接していること、また、当時はイスラム教徒が支配していたスペイン(アンダルシア)とも近かったことが理由だ。

 ちなみに、現在はクロアチア領となっているラグーザ(ラグサ)という都市国家では、黒死病対策として、同市に新たに入ってきた者を特定地域に30日間隔離する政策を取った。その間、病気の兆候が出ないかどうか監視していたわけだ。現在の隔離政策の先鞭(せんべん)である。

 その後、ベネチアでは、その隔離期間が40日に延長された。ベネチア方言で40日のことを「quaranta giorni」と言う。この語が、英語のquarantineやフランス語のquarantaineなど大半の欧州語で「隔離」を意味する言葉の語源になったのである。

 なお、イスラム世界は当時の医療先進地域であった。例えば、アンダルシアの医師、イブヌルハティーブは、黒死病が接触感染することを指摘している。同じくアンダルシアのイブン・ハーティマも、黒死病感染防止のため隔離が有効であることに気づいていた。彼は、砂漠でテント生活を送るベドウィンに黒死病が発生していないことをその例として挙げている。

 中東諸国において新型コロナウイルス感染者が今も発見されていないのは、皮肉にもシリア、リビア、イエメンの3カ国だけである。ご承知のとおり、この3カ国はいずれも内戦状態にあり、コロナウイルスどころではないだろう。しかし、もし、これらの国で感染者が出れば、医薬品の不足や医療体制の不備により、感染が爆発的に拡大する恐れがある。

 14世紀の黒死病と現在の新型コロナウイルス感染拡大で大きく異なるのは、医学の進歩と感染防止を目的とする国際協力の制度が存在すること、そして圧倒的な情報量である。

 しかし、内戦中の国では、こうした現代の利点を利用できない可能性もあろう。とはいえ、内戦に関与しているとされる中東の大国(例えばイラン、サウジアラビア、UAE=アラブ首長国連邦=など)が自国内の感染拡大や世界経済の減速による原油価格の低迷などで、内戦に手出し・口出しする余裕がなくなれば、状況は変わってくるかもしれない。いずれにせよ、対立する諸勢力が一致団結して感染症対策に当たれるかどうか、今がその瀬戸際ではないだろうか。

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3/14、4/5ウェビナー開催 「中国、技術覇権の行方」(全2回シリーズ)

 米中対立が深刻化する一方で、中国は先端技術の獲得にあくなき執念を燃やしています。日経ビジネスLIVEでは中国のEVと半導体の動向を深掘りするため、2人の専門家を講師に招いたウェビナーシリーズ「中国、技術覇権の行方」(全2回)を開催します。

 3月14日(火)19時からの第1回のテーマは、「特許分析であぶり出す中国EV勢の脅威」です。知財ランドスケープCEOの山内明氏が登壇し、「特許分析であぶり出す中国EV勢の脅威」をテーマに講演いただきます。

 4月5日(水)19時からの第2回のテーマは、「深刻化する米中半導体対立、日本企業へのインパクト」です。講師は英調査会社英オムディア(インフォーマインテリジェンス)でシニアコンサルティングディレクターを務める南川明氏です。

 各ウェビナーでは視聴者の皆様からの質問をお受けし、モデレーターも交えて議論を深めていきます。ぜひ、ご参加ください。

■開催日:3月14日(火)19:00~20:00(予定)
■テーマ:「特許分析であぶり出す中国EV勢の脅威」
■講師:知財ランドスケープCEO 山内明氏
■モデレーター:日経ビジネス記者 薬文江

■第2回開催日:4月5日(水)19:00~20:00(予定)
■テーマ:「深刻化する米中半導体対立、日本企業へのインパクト」
■講師:英オムディア(インフォーマインテリジェンス)、シニアコンサルティングディレクター 南川明氏
■モデレーター:日経ビジネス上海支局長 佐伯真也

■会場:Zoomを使ったオンラインセミナー(原則ライブ配信)
■主催:日経ビジネス
■受講料:日経ビジネス電子版の有料会員のみ無料となります(いずれも事前登録制、先着順)。視聴希望でまだ有料会員でない方は、会員登録をした上で、参加をお申し込みください(月額2500円、初月無料)

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