ブリンケン氏(撮影時は米国務副長官)と王毅氏(中国外相)は握手できるか(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 中国の王毅(ワン・イー)国務委員兼外相が2月22日、北京で開かれた藍庁論壇(Lanting Forum)で米中関係をテーマに講演した。その後3月3日には、バイデン政権のアントニー・ブリンケン国務長官が就任後初めての包括的な外交政策演説を行った。2つの演説が相前後して続いたことはもちろん、その内容が正反対であったことも決して偶然ではなかろう。

 それにしても米中間を分かつ利益の相反は、バイデン政権が発足した直後であるにもかかわらず一層深刻なものとなりつつある。今や修復不能な状況に近付いているようにすら思える。

 日本では「バイデン政権はトランプ政権と異なり、中国に対し必ずしも厳しくない」と懸念する向きが少なくない。そこで今回は、米中外相による直近の外交演説を精読・比較した上で、米中関係の今後を占ってみたい。

ブリンケン演説の「報じられなかった」部分

 ブリンケン演説を内外メディアはこう報じている。新型コロナウイルス、世界経済再生、気候変動、先端技術など8項目の外交最重要懸案を列挙。中国について「今世紀最大の地政学上の課題」「規則や価値観を巡る世界的なシステムを形成する米国の能力に挑戦できる唯一の国」であり、米中関係は「必要なときは競争的、可能なときは協力的、必須なときは敵対的」になると述べ、今後も「強い立場」で中国に臨むと強調した……。

 まあ、記事を書くとすれば、こんなところなのだろう。もちろん、内容は決して間違っていない。しかし、筆者がより注目するのは、今回のブリンケン演説について報じられなかった部分だ。中でも筆者が最も注目したのは、ブリンケン演説が、歴代国務長官による従来の外交演説とは質的に異なる部分を数多く含んでいたことである。以下、筆者が気になった部分を見ていこう。

【1】内向きになった米国外交
 ブリンケン長官は「米国民のための外交」と題したこの演説の冒頭を次のように切り出した。「私の仕事は米国を代表し、皆様国民の利益と価値のために戦うこと。皆様の生活をより安全にし、皆様とご家族のために機会を創造し、皆様の将来を決める世界の危機に取り組むことである」。この種の演説を長く読んできた筆者の経験において、国務長官のこのような外交演説を聞くのは初めてのことだ。

 この内容は「国際協調主義」というより、むしろ「米国第一主義」に近い。昨年の大統領選挙戦中からバイデン陣営は「米国の中産階級に信頼される外交」を掲げてきた。ブリンケン長官は今回「時代が変わったから、(オバマ政権時代の経済政策とは)戦略も手法も異なるのは当然だ」という。だが、同氏の演説内容はオバマ政権の外交姿勢と異なるだけでなく、トランプ前政権ともいささか違う。振り返ってみれば、トランプ氏は「米国第一主義」ではなく、あくまでも「トランプ第一主義」だった。

【2】バイデン経済は自由貿易主義ではない?
 続けて、ブリンケン長官は8項目の最重要懸案を掲げた。新型コロナウイルス対策に続く第2の優先順位は経済政策であり、中国ではなかった。ここでも「米国人労働者とその家族の良い雇用、良い収入、低い家計費」の実現を強調した。特に興味深いのは、ブリンケン国務長官が過去の自由貿易政策の教訓に触れ、「以前は我々も、米国人が裨益(ひえき)するとして自由貿易協定を推進した。だが今や、それを再考する時期に来ている」と明言したことだ。

 この調子では自由貿易交渉の再開どころか、米国のTPP(環太平洋経済連携協定)復帰も絶望的だろう。バイデン政権はこれまで、トランプ政権を批判し、同盟国や国際機関との連携を強調してきた。だが、その本音はやはり新手の「米国第一主義」でしかなさそうだ。バイデン政権の経済外交政策は、よく言えば「新たな協力」、悪く言えば「新たな負担」を国際機関や同盟国に求めてくる可能性が高いと見るべきである。

続きを読む 2/2 ほとんどインパクトがなかった王毅演説

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