
東京電力福島第1原子力発電所の炉心溶融事故から今年で10年。ドイツはこの事故をきっかけにエネルギー政策を根本的に変えた世界で唯一の主要工業国だ。同国は10年前に決定した通り、2022年12月末に最後の原子力発電所のスイッチを切る。
原子力擁護派だったメルケル首相
ドイツに脱原子力へとかじを切らせたのは、アンゲラ・メルケル首相だった。彼女は政治家になる前、東ドイツ科学アカデミーの研究所で物理学者として働いていた。社会主義国で育ったため、西ドイツで吹き荒れた反原発運動の洗礼を受けていなかった。ドイツ統一後に政治家になってからも、原子力エネルギーについては肯定的な態度を取ってきた。メルケル首相は、「ドイツの原子力発電所は世界で最も安全だ」と発言したこともある。
メルケル首相が原子力擁護派だったことは、2010年に原子力発電所の延命を図ったことに表れている。ゲアハルト・シュレーダー前首相が率いた左派連立政権(1998~2005年)は、原子炉の最大発電量を制限する初の脱原子力法を2002年に施行させた。この法律は、原子炉の停止時期を確定するものではなかった。例えば定期点検のために原子炉の運転を止めると、その期間の分だけ稼働期間を延長した。このため各原子炉の停止時期を特定することはできなかった。しかし、シュレーダー政権がこの国では初めて、法律によって、およその最大稼働年数を決めたことは間違いない。
だが2005年に首相の座に就いたメルケル氏は、2010年秋に打ち出した長期エネルギー戦略の中で「原子力は、再生可能エネルギーが普及するまで、過渡期のエネルギーとして必要だ。原子力を使わなければ、地球温暖化を引き起こす温暖化ガスを大幅に減らすことはできない」と主張し、17基の原子炉のおよその稼働年数を平均12年間延長した。これは電力業界が望んでいた措置だった。国民からも強い反対の声は上がらなかった。
またメルケル首相は原子力産業の団体「ドイツ原子力フォーラム」が2009年に創立50周年を祝う式典を開いた際、主賓として出席。祝辞の中で「ドイツの未来を保証するために原子力エネルギーは必要だ」と述べ、原子力発電を重視する姿勢をはっきり打ち出していた。
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