欧米諸国はキエフ攻防戦が近づくにつれ、深刻なジレンマに直面する。ドイツやフランスなどの政治家たちは演説の中で「我々は、欧州の民主主義を守るために戦っているウクライナを支援する」と繰り返す。だが、NATOはウクライナでの流血を止めるために、ロシア軍と戦う意図はない。

 欧米諸国は、かじ取りを一歩誤るとロシアと軍事衝突し、核戦争という危険なコースに迷い込みかねないことを知っている。

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コソボ空爆作戦に加わったオランダ軍のF-16A(提供:U.S.CLH/ロイター/アフロ)
コソボ空爆作戦に加わったオランダ軍のF-16A(提供:U.S.CLH/ロイター/アフロ)

 「これまでの常識が通用しない時代が来た」と考えているのはドイツだけではない。EU(欧州連合)は2月27日、「ウクライナが武器を買えるように、平和維持基金の中から、5億ユーロ(約650億円)の資金を援助する」と発表した。EUが域外の紛争当事国のために武器調達の予算を支出するのは初めてのことである。

NATOが初めて緊急即応部隊を派遣

 またNATOは2月25日、緊急即応部隊(NRF)を東欧に派遣すると初めて決定した。NRFは、特殊部隊など4万人の将兵から成るエリート部隊。NATOが1949年に創設されて以来、NRFを加盟国に派遣したことはこれまで一度もなかった。3日後の2月28日には、NRFに所属する約500人のフランス軍兵士らが、ウクライナと国境を接するルーマニアに先遣隊として到着した。

 NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は「ロシアのウクライナ侵攻という過去数十年において最悪の危機に鑑み、NATOの抑止力を強化するため、NRF を初めて派遣した。我々は集団的自衛権の原則に基づき、NATO加盟国の領土を1インチも敵に譲らない」と説明した。つまりNRFの派遣は、NATO加盟国への侵攻という誘惑にロシアが乗らないよう抑止するのが目的だ。

 また米国のジョー・バイデン大統領は2月23日、バルト3国に駐留しているNATO部隊を増強すべく、これら3国に米軍の戦闘部隊を常駐させる方針を打ち出した。かつてソ連に併合されていた国に、米軍が常駐するのも初めてのことである。

 例えばエストニアはロシア系住民の比率が高く、プーチン大統領が将来、「勢力圏」への奪還を試みる危険がある。米軍部隊がバルト3国に常駐すれば、ロシア軍部隊がバルト3国に侵攻した場合、直ちに米国の戦闘部隊と対決することになる。つまりバイデン大統領は、米軍常駐によって抑止力を高めることを狙っている。

 これらの歴史的な決定の背景には、プーチン大統領の侵略行為がどの国でストップするか分からないという、欧米諸国の強い不安がある。

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