ロシアにとってのウクライナと、中国にとっての台湾の位置づけに似ている部分がある。このため「ロシアのウクライナ侵攻が中国の台湾武力統一を促す」との見方が根強くある。だが、この見方を否定する理由が大きく3つある。第1は、台湾を現状維持のままにしておいても中国にとって軍事リスクが高まることはないこと。中国が自ら武力統一に動き出さない限り、当面は米軍の方から台湾に軍事介入することは考えにくい。第2の理由は……。キヤノングローバル戦略研究所の瀬口清之研究主幹に聞いた。

(聞き手:森 永輔)

(写真:ロイター/アフロ)
(写真:ロイター/アフロ)

キヤノングローバル戦略研究所の瀬口清之研究主幹(以下、瀬口):ロシアがウクライナ侵攻を開始して約2週間が経過しました。今回は、この出来事が中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席の今後の行動にどう影響するかについて考えます。日米中関係の動向を見ている欧米人の国際関係の専門家と議論しました。

 注目を集めている台湾武力統一について、欧米の中国専門家は「当面はあり得ない」と考えています。ロシアにとってのウクライナと、中国にとっての台湾の位置づけは似ている部分があることから「ロシアのウクライナ侵攻が中国の台湾武力統一をうながすのでは」との見方が浮上していました。

瀬口 清之(せぐち・きよゆき)
瀬口 清之(せぐち・きよゆき)
キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹 1982年東京大学経済学部を卒業した後、日本銀行に入行。政策委員会室企画役、米国ランド研究所への派遣を経て、2006年北京事務所長に。2008年に国際局企画役に就任。2009年から現職。(写真:加藤 康、以下同)

ウクライナは旧ソ連を構成する共和国の1つ。現在は独立国であるにもかかわらず、プーチン大統領は“属国”視しています。2021年7月に発表した論文に「ウクライナの真の主権はロシアとのパートナーシップがあってこそ保持できる」と記していました。

 中国は台湾をめぐって「一つの中国」原則を主張しています。その内容は(1)「世界で中国はただ一つである」、(2)「台湾は中国の不可分の一部である」、(3)「中華人民共和国は中国を代表する唯一の合法政府である」というものです。

瀬口:「ロシアのウクライナ侵攻によって中国による台湾武力統一の可能性が高まった」とする見方が米国内で強い勢いを持っています。しかし、これは強い反中感情を共有している議会やメディアが中国たたき目的のプロパガンダとして叫んでいる面があることを理解すべきだというのが米国の国際政治専門家の一般的評価です。

 日本でも同様の主張をする人が見受けられます。米国における情報発信の背景を知らずに米国の論調に共鳴している可能性がある、と考えるべきでしょう。米国人の中国専門家の多くは、この「可能性が高まった」という見方を否定しています。

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