米民主党の大統領候補指名争いは3月3日、前半の山場であるスーパーチューデーを終えた。ジョー・バイデン前副大統領が獲得代議員数を大きく伸ばし、これまで首位だったバーニー・サンダース上院議員を逆転した。指名争いはまだ前半を終えたところ。過半数争いはまだまだ続く。ただし、バイデン氏は代議員の過半数を獲得しなくても、指名を得られる可能性が高く、事実上の勝利を手にしたともいえる。党大会での投票をめぐるルールゆえだ。米国政治に詳しい、前嶋和弘・上智大学教授に聞いた。
(聞き手:森 永輔)
サンダース氏(左)は「夢」を、バイデン氏は「経験」を訴える(写真:ロイター/アフロ)
米民主党の大統領候補指名争いは3月3日、前半の山場であるスーパーチューズデーを迎え、全米14州と1地域で投票が行われました。その結果、執筆時点でバイデン氏が獲得した代議員数は638、サンダース氏が獲得した代議員数は563と、バイデン氏がサンダース氏を追い抜きました。前嶋さんは、この結果をどう評価しますか。
前嶋:一言で言えば、バイデン氏の逆襲です。
前嶋和弘(まえしま・かずひろ)
上智大学総合グローバル学部教授。専門は米国の現代政治。中でも選挙、議会、メディアを主な研究対象にし、国内政治と外交の政策形成上の影響を検証している(写真:加藤 康)
同氏は緒戦となるアイオワ州、それに続くニューハンプシャー州で票を伸ばすことができず、一時は撤退も話題にされました。しかし、スーパーチューズデーで行われた14州のうち10州で首位に立ち、先の2州で作ったツケを返しました。
ここで2つの見方をお話ししたいと思います。1つは、指名を得るために必要な過半数争いの行方は、まだまだ分からないということ。野球で言えば4回あたりですから。もう1つは、7月に予定される民主党党大会の投票ルールを考えれば、バイデン氏が極めて有利で、バイデン氏は“実質的に勝利”したということです。
まず過半数争いについて。民主党の大統領候補指名争いは、獲得した代議員の数を争います。その総数は3979で、過半数は1991。スーパーチューズデーを終えた時点で、対象となった代議員数は約1500なので、約40%が終了したことになります。この段階でバイデン氏が獲得したのが約640、サンダース氏は約560で差は80ですから、サンダース氏にもまだまだ逆転するチャンスが残っています。
ただし、党大会を見据えると、この様相が違ったものになります。これが2つ目の見方です。第1回の投票は、州単位の予備選で各候補が獲得した代議員数が得票数になります。ここで過半数を得る候補が現れない場合、第2回投票には771人の特別代議員が加わります。議員経験者や党幹部で構成される、いわゆる民主党のドンたちです。彼らは州の投票結果にとらわれることなく、投票することができます。そして、彼らの多くが、同じくドンの一人であるバイデン氏に投票することが予想されるのです。同氏は上院議員(デラウェア州選出)を36年務めた後、オバマ政権で8年にわたって副大統領の職にありました。
この第2回投票を前提とすれば、サンダース氏に第1回投票で過半数さえ取らせなければ、バイデン氏は指名を獲得することができるわけです。
実は、2016年に行われた前回の指名争いでは、特別代議員も第1回投票に参加することができました。この時はヒラリー・クリントン氏とサンダース氏の争いで、クリントン氏が第1回投票で過半数を得て、指名を獲得しました。この時、多くの特別代議員がクリントン氏を支持。これに対してサンダース氏が「(州の予備選・党員集会の意向に縛られることなく)民意を反映していない特別代議員が結果を大きく左右するのはおかしい」と激しく反発しました。「ボス政治」が行われている、というわけですね。これを受けて、今回の指名争いでは、特別代議員は第1回投票には参加できないことになりました。
くら替えの見返りに、政策やポストを提示
もう少し、民主党の指名争いの仕組みをお話ししましょう。第1回投票に参加する代議員は原則として、州で行われた予備選挙および党員集会での結果に応じて投票します。例えば、2月22日に投開票を終えたネバダ州(代議員数=36)では、バイデン氏が9人、サンダース氏が24人、ピート・ブティジェッジ氏*が3人の代議員を獲得しました。党大会における第1回の投票では、バイデン氏は9票、サンダース氏は24票、ブティジェッジ氏は3票を獲得できるわけです。
*:インディアナ州サウスベンドの市長を務めた
ブティジェッジ氏は既に撤退を決めています。ブティジェッジ氏を推すと約束した代議員が誰に投票するかは代議員に任されることになります。民主党の規約は、「代議員は、彼ら・彼女らを選んだ人々の気持ちをくんで、良心をもって投票する」と定めるのみです。ブティジェッジ氏はバイデン支持を表明していますが、この3票がバイデン氏に回るとは限りません。
第1回投票で過半数を獲得する候補が現れない時は、ブローカード・コンベンション(brokered convention)という話し合いが行われます。各候補を推す代議員が、他の候補を推す代議員と話をし、自身が推す候補にくら替えするよう説得する場です。くら替えの見返りは、例えば政策や党の綱領に盛り込む文言、党のポストなどです。「○○の補助金を実現するから、□□候補に投票してくれ」という具合ですね。
話し合いが前回行われたのは1952年に遡ります。それより以前にはお金も飛んだようです。現在はそのようなことはないかもしれません。
それぞれの代議員は、第2回投票で誰を推すかは自由です。州の予備選・党員集会の結果に縛られることなく、それぞれの信念に基づいて投票できる。ここでいう信念は“信念”、すなわち、見返りを加味した上でのものです。
特別代議員によるバイデン支持は禍根を残す
ただし、第2回投票でバイデン氏が勝利した場合、ドナルド・トランプ大統領と争う本選に禍根を残す可能性が大です。サンダース氏は、再び激しく抗議するでしょう。16年の指名争いで批判したボス政治が再演されるわけですから。このためサンダース氏は、指名争いが始まる前からこれを警戒し、「たとえ過半数の票を獲得できなくても、第1回投票で首位となったものが指名されるべきだ」と主張しています。今からルールが変わることはないと思いますが。
サンダース氏による抗議が激しくなれば、同氏の支持者が本選でバイデン氏に投票しない、もしくは投票そのものに行かない可能性が浮上します。これはトランプ氏に有利な状況を生み出します。
民主党の指名争いが激しくなればトランプ氏が有利になる、といわれています。ここに理由の1つがあるのですね。
前嶋:そうですね。ただし、もっと大きな理由があると考えています。民主党に「熱」がないことです。これまで行われた予備選・党員集会を振り返ると、その投票率が極めて低く、その平均は約24%にとどまります。従来の平均は約30%でした。中でも、民主党だけが予備選・党員集会を開いた州は投票率が低く、バージニア州は21.4%、サウスカロライナ州は13.8%。ネバダ州は4.9%にとどまります。民主党の候補に誰が得るにせよ、この盛り上がりのなさは、トランプ氏に有利に働きます。
民主党のボスが中道候補を一本化?!
ここからは、スーパーチューズデーで(1)バイデン氏が逆襲に転じることができた理由、(2)サンダース氏が伸び悩んだ理由、(3)マイケル・ブルームバーグ氏が撤退に追い込まれた理由をお伺いします。まず(1)バイデン氏が逆襲に転じることができた理由はどこにあったのでしょう。
前嶋:バイデン氏の勝因について、やはり民主党のボス政治の力があったと考えられます。
バイデン氏は冒頭でお話ししたように、第1戦のアイオワ州と第2戦のニューハンプシャー州で大きなミスを犯し、ツケを作りました。それまで無名だったブティジェッジ氏とエイミー・クロブシャー上院議員に存在感を示させ、自身は彼らの後塵(こうじん)を拝することになったからです。予備選の勝利の方程式は、この2州で勝利し、資金の獲得につなげ、弾みを付けることです。これができませんでした。
同氏が勢いを回復したのは、第4戦であるサウスカロライナ州での予備選でした。ここで圧勝し、39人の代議員を獲得したことで流れが変わりました(サンダース氏は15人)。同州はアフリカ系有権者が多く、オバマ政権の副大統領を務めたことで彼ら・彼女らの間で大きな人気を誇るバイデン氏が勝利するのは確実でした。しかも、投票日の直前に同州民主党の“ボス”、ジェームズ・クライバーン氏が「バイデン支持」を表明。さらに勢いを加えました。
クライバーン氏は同州選出の下院議員。院内幹事を務める民主党下院のナンバー3です。同氏自身がアフリカ系で、アフリカ系有権者の動向を大きく左右できる存在です。同州の民主党支持者の6~7割をアフリカ系が占めています。
加えて、スーパーチューズデー直前の3月1日、ブティジェッジ氏が撤退。翌2日にはクロブシャー氏も撤退を表明しました。クロブシャー氏は同日、既に撤退していたベト・オルーク前下院議員とともにバイデン氏を応援する集会に顔を出し、ともにバイデン支持を訴えました。ブティジェッジ氏も同日にバイデン支持を表明しています。ブティジェッジ氏とクロブシャー氏はいずれも中道で、本来ならバイデン氏に回っていた票を、奪っていました。中道候補がバイデン氏に一本化されたことで、スーパーチューズデーでは中道票がバイデン氏に集中しました。
中道候補を一本化するに当たって、やはり、民主党の“ボス”が動きました。
名前が挙がっているのは、ハリー・リード氏ですね。
前嶋:同氏は民主党の上院トップである院内総務を長く務めた人物です。こうしたボスたちが動いたことは間違いないでしょう。スーパーチューズデーに至るまでの動きを振り返ると、いかにも不自然でしたから。
最もおかしかったのは、クロブシャー氏が3月2日に撤退したことです。同氏はミネソタ州選出の上院議員。そのミネソタ州での投票が翌3日にあるのに、なぜ撤退する必要があったのでしょう。何かしら「ディール」があったとしか思えません。
「クロブシャー氏が副大統領候補になるかもしれない」という話が、ニューハンプシャー州で予備選が行われた直後から出ていました。同氏は同州で代議員6人を獲得し、突然注目を集めました。
前嶋:バイデン氏との組み合わせを考えると、女性であることもプラスに作用しています。
ブティジェッジ氏の撤退も不自然です。アイオワ州で1位を獲得しています。彼が撤退する理由は見当たりません。8カ国語を操る同氏には、撤退する見返りに、バイデン政権の国務長官のポストが提示された可能性があります。この人事が実現した場合、ブティジェッジ氏はゲイなのでイスラム諸国が反発する恐れがありますが。
ブルームバーグ氏の立候補は“金持ちの道楽”
サンダース氏が伸び悩んだ理由はどこにあるのでしょう。
前嶋:私はサンダース氏が伸び悩んだとは見ていません。同氏は、実力通りのものを発揮していると思います。
事前の世論調査に比べて得票が少ない背景にはあるのは、先ほどお話しした「熱」のなさが影響しているとみられます。世論調査ではサンダース氏支持と回答したアフリカ系の有権者が、サウスカロライナ州におけるバイデン氏の勢いを見て、バイデン支持に乗り換えた可能性があります。
ミネソタ、メーン、オクラホマの3州の結果に注目したいと思います。いずれも、前回2016年の予備選ではサンダース氏がヒラリー氏に勝利しました。しかし、今回はバイデン氏に敗れています。
前嶋:ミネソタ州は、クロブシャー氏が撤退し、バイデン支持を訴えたからですね。
メーン州についてはよく分かりません。サンダース氏の地盤であるバーモント州からも近く、サンダース氏が勝利してもおかしくないのですが。
オクラホマ州は16年のサンダース勝利が意外な結果でした。カギを握ったのはアフリカ系有権者です。彼らはビル・クリントン氏を強く支持していました。同氏は幼いころに父親を亡くした上、義父は家庭内で暴力を振るうなど、恵まれない少年期を過ごしました。こうした境遇がアフリカ系有権者の気持ちを捉えたからです。彼らは、16年予備選ではビル氏の夫人であるヒラリー氏を支持するとみられていたのですが、そうはなりませんでした。これが、16年予備選でサンダース氏が勝利した背景です。ビル氏とヒラリー氏は有権者から見て異なる存在だったということですね。今回の予備選では、アフリカ系の有権者が順当にバイデン氏を支持しました。
テキサス州も、世論調査ではサンダース氏優勢とされていましたが、ふたを開けてみたらバイデン氏の後塵を拝することになりました(バイデン氏=111、サンダース氏=102)。
前嶋:サンダース氏が有利とされていたのはヒスパニック系の支持が同氏に集まるとみられていたからです。その世論調査を覆す結果となったのは、やはりボス政治の影響だと考えられます。出口調査を見ると、投票する候補を直前の数日で決めた人が数多くいました。サウスカロライナ州でのバイデン勝利や、撤退した3候補によるバイデン支持が追い風になったのでしょう。
リベラルの傾向が強いカリフォルニア州でバイデン氏が善戦(バイデン氏=127人、サンダース氏=179人)しているのも、同じくボス政治の効果が出たものと捉えています。
ブルームバーグ氏が撤退した原因をどう見ますか。
前嶋:最も大きいのは戦略ミスです。先ほど指摘したように、緒戦のアイオワ州で勝つことが、勝利の方程式です。同氏が同州の党員集会に参加することができなかったのは、指名候補争いに参加するか否かの決断が遅かったからです。
加えて、資金力は強力であるものの、政治信条や人的魅力の面で引き付けるものがありませんでした。ブルームバーグ氏の集会を取材したあるメディアの記者によると、人は訪れるものの、まったく盛り上がらない。みな、ビュッフェスタイルの夕食を食べるだけで帰る、という状態だったそうです。米国では、選挙運動の中で食事を出しても供応とはされません。
ネバダ州での党員集会を前に、2月19日に行われた討論会なども、同氏に不利に働きました。過去のセクハラ問題を追及されても応戦することができず、サンダース氏を引き立てるための“かませ犬”のような状態になっていました。
結局のところ、同氏の立候補は“金持ちの道楽”だったと思います。同氏の撤退は、今後、同じく中道であるバイデン氏に有利に働くことになります。
「経験」を取るか、「夢」を取るか
ここからは、代議員の過半数獲得に向けた今後の展望をお伺いします。中道候補の相次ぐ撤退およびエリザベス・ウォーレン氏の撤退を受けて、バイデン氏とサンダース氏の一騎打ちの様相が濃くなりました。この2人の争いの軸となるのは何でしょうか。
前嶋:ウォーレン氏をめぐる情勢は厳しいものがありました。自身の基盤であるマサチューセッツ州で第3位に甘んじることになりました。民主党の有権者はバイデン氏とサンダース氏の背後に別の人物の姿を見ています。バイデン氏の背後にはオバマ氏がいる。そして、サンダース氏の背後には、同じく左派の若手ホープ、アレクサンドリア・オカシオコルテス氏*の姿がある。ウォーレン氏の背後には、こうした有力な人物の姿が見当たりませんでした。
*:2018年の中間選挙で史上最年少の女性下院議員となった。サンダース氏と同様に「民主社会主義者」を自認。「左派のトランプ」との異名をとる。
バイデン氏を選ぶか、サンダース氏を選ぶか、有権者が直面する最も大きな選択は、「経験」を取るか「夢」を取るかです。バイデン氏は上院議員や副大統領として40年にわたる政治経験を誇示。これに対してサンダース氏は「既存政治の打破」「社会改革」を訴えています。民主党の有権者はこのどちらを選ぶのか。
サンダース氏は「社会改革」の一環として、公的な健康保険の導入や、学生ローンの帳消しなどを公約に掲げています。
前嶋:こうした「左派」的な公約が、バイデン氏を擁する「中道」勢力の目には非現実的と映ります。加えて、サンダース氏の政策は、こうした政治信条の違いだけでなく、「経験」と「実績」を重視する立場からも受け入れがたいものになっています。
健康保険を例に説明しましょう。実は、米国で健康保険に加入していない人は米国全体で15%程度しかいません。収入が基準より低い低所得者は「メディケイド」で、65歳以上の高齢者や身体障害者は「メディケア」でカバーされています。生産年齢にある人々も、多くが健康保険に加入しています。米国の労働組合の歴史を振り返ると、健康保険を取得すべく戦ってきました。彼らにとって健康保険は血と汗をもって勝ち取ったものなのです。これに対してサンダース氏の提案は、新たな制度を導入する一方で、既存の健康保険を廃止するとしています。
「経験」か「夢」かに加えて対立軸となるのは、ボス政治に対するスタンスと、トランプ氏に勝てる候補であるか否かです。サンダース氏がボス政治に強く反発していることは既にお話ししました。
トランプ氏に勝てる候補であるか否かについて、「バイデン氏の方が勝てる可能性が高い」との見方が一般的です。しかし、私はそうは見ていません。サンダース氏も遜色ないと思います。
サンダース氏の方が熱心な支持者が数多くいます。特に30ドル程度の小口の献金をしてくれる支持者たちですね。彼らは、お金をたくさん持っているわけではありませんが、小口の献金を繰り返ししてくれる。さらにボランティアとして活動も手伝ってくれます。これに対してバイデン氏にはなかなかお金が集まりません。
これまでのところ、民主党の予備選においてバイデン氏が首位に立っている州は南部に集中しています。過去の本選において民主党の強固な地盤となってきた東海岸沿い(特に北東部)と西海岸沿い(特に南西部)ではサンダース氏が勝利しています。バイデン氏が指名を獲得した場合、本選でこの点が影響しないか気になります。
前嶋:その点はよく分からないですね。民主党内での争いですから。
関連して言うと、バイデン氏はバージニア州やノースカロライナ州などのスイングステート*で勝利したことをもって、「自分はトランプ氏に勝てる」と訴えています。果たして、そうなるかどうか。
*:大統領選の本選における激戦州。これまで、共和党候補が勝ったり、民主党候補が勝ったりしてきた
その意味では、トランプ大統領が誕生する原動力となったミシガン(3月10日)、ウィスコンシン(4月7日)両州の民主党予備選がどうなるかに 注目ですね。ラストベルトと呼ばれる地域である上にスイングステートでもあります。
前嶋:ええ。後は代議員の数が多いニューヨーク州(4月28日)とフロリダ州(3月17日)も重要ですね。
私が重視するのは、やはり「熱」です。バイデン氏が指名を得ようと、サンダース氏が指名を得ようと、民主党には熱が感じられないのです。
ロシアがサンダース支持で介入
前嶋:バイデン氏とサンダース氏との戦いを展望する時に、気になるのはロシアの動きと両氏の健康状態です。サンダース氏を支援するべく、ロシアが介入を試みていると報道されています。これに対してサンダース氏は「分断を促し、米国の民主主義の弱体化を図っている」とロシアを非難しました。
ロシアがサンダース支持で動く理由の1つは、トランプ氏を再選させるためです。先ほど触れたように、サンダース氏は一般に「バイデン氏に比べて、トランプ氏に勝てない」とみられていますから。ロシアにとって、ロシアと敵対する姿勢を見せないトランプ氏は好ましい大統領です。同氏が再選すれば、現状を維持できます。
私は、これに加えてもう1つ理由があると考えています。サンダース氏が大統領になれば米国の内政が混乱しかねないことです。同氏が掲げる急進左派的な政策は、多くの摩擦を生じさせるでしょう。
教育ローン負債の帳消し、公的な医療保険の導入、グリーンニューディールによる2000万人の新規雇用などですね。それぞれ1.6兆ドル、年1.8兆ドル、年平均1.6兆ドルのコストが掛かる とされています。サンダース氏はこれを賄うべく、法人税率の引き上げ(21%から35%へ)や富裕層への資産課税(年4000億ドル)を提案しています。
前嶋:サンダース氏がこれらを実現すべく動き、国内に混乱が生じれば、米国は外交どころではなくなります。ロシアにとっては朗報でしょう。
年齢を見ると、サンダース氏が78歳、バイデン氏が77歳。サンダース氏は昨年10月に心臓発作を起こし、入院することがありました。バイデン氏も、最近の演説を見ていると、その言動に不安を覚える機会が増えています。ある演説では、ステージに上がってきた家族を紹介する際、夫人と姉妹を反対に紹介していました。また、テレビのインタビューで、「スーパーチューズデーにおける必勝の州はどこですか」と問われて「ジョージア州」と答えていました。ジョージア州の予備選は3月24日まで待つ必要があります。
この記事はシリーズ「世界展望~プロの目」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
Powered by リゾーム?