米国と、アフガニスタンの反政府武装勢力タリバンが2月29日、アフガニスタン戦争をめぐる初めての和平合意に署名した。しかし、アフガニスタン政府は関わっておらず、「包括的和平」には程遠い。加えて、米軍の関与が縮小することで、新たなパワーゲームを引き起こす可能性が高い。インドとパキスタンの対立関係に波及する。ロシアとイランも米軍のプレゼンス低下を歓迎する。アフガニスタンで武装解除に取り組んだ経験を持つ伊勢﨑 賢治・東京外国語大学教授に聞いた。

(聞き手 森 永輔)

米国との和平協定への署名に臨んで、祈りをささげるタリバンの代表団(写真:AP/アフロ)

米国と、アフガニスタンの反政府武装勢力タリバンが2月29日、2001年に始まったアフガニスタン戦争をめぐる初めての和平合意に署名しました。しかし、もう1つの重要プレーヤーであるアフガニスタン政府は関わっておらず、「包括的和平」を最終ゴールとするなら程遠い気がします。伊勢﨑さんは今回の合意をどう評価しますか。

伊勢﨑:「包括的」とはとても言えません。包括的とは、米政府とタリバン、アフガニスタン政府だけでなく、すべてのプレーヤーが関与するものです。アフガニスタンの国内で米国に盾突いているのはタリバンだけではありません。「イスラム国(IS)」を標榜するものもいるし、アフガニスタン政府の傘下にない軍閥、テロ組織など多岐にわたります。これらを一つの合意に網羅するのは無理ですが、今回の合意が、全ての戦闘の停止を意味するものではないということです。

伊勢﨑賢治(いせざき・けんじ)
東京外国語大学・大学院総合国際学研究院教授。専門は国際関係論。1957年生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了。国際PKO幹部として東ティモール暫定行政府の県知事を務める。シエラレオネ、アフガニスタンで武装解除を指揮した経験を持つ。(写真:加藤 康、以下同)

いびつな形の“和平合意”

 また、少なくともアフガニスタン政府が関わるものでないと「和平」とは言えない。アフガニスタンという主権国家でタリバンと戦っているのは、あくまでアフガニスタン政府なのですから*。“和平合意”と呼ぶものの、とてもいびつな形をしています。

*:タリバンは3月3~4日にかけてアフガニスタン政府が運用する検問所を攻撃。政府軍兵士や警察官など20人以上が死亡した。

 合意への署名からわずか2日後の3月2日、アフガニスタンのアシュラフ・ガニ大統領が和平合意でうたっている捕虜交換に対し不満を表明しました*。アフガニスタン政府を関与させていないから、このようなことが起こるわけです。

*:上述のタリバンによるアフガニスタン政府施設攻撃は、ガニ大統領の姿勢に不満を示したもの、との見方がある
続きを読む 2/5 3プレーヤーがいずれも分裂状態

この記事はシリーズ「世界展望~プロの目」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。