2019年1月1日に金正恩が発表した「新年辞」から、北朝鮮で考えられている非核化の意味や範囲を理解できる部分がある。金正恩は「原子力発電能力を展望性あるよう助成」すると主張した。つまり「核の平和利用」は放棄しないことになる。それ自体は祖父である金日成(キム・イルソン)以来の北朝鮮の方針であるから驚きはしない。

 ただし、「核の平和利用」は放棄しないとなると、すべてのウラン濃縮施設を破棄することはできないことになる。北朝鮮は寧辺(ニョンビョン)で軽水炉を建設中であり、それが続いていることを2018年11月22日に国際原子力機関(IAEA)が報告している。その軽水炉の核燃料となるのが低濃縮ウランである。

 北朝鮮にはウラン鉱山があるので、ウラン濃縮施設があれば、基本的に軽水炉の核燃料を自国内で生産できることになる。原料から完成品までを一貫して国内で生産するのは、北朝鮮の経済政策である「自立的民族経済建設路線」(自力更生とか主体化などで表現される)に合致する。もちろん、先進国では自国内で何もかも生産するような非効率な経済政策は推進しない。

 2018年9月19日に行われた南北首脳会談の「9月平壌共同宣言」で北朝鮮が永久に核施設を破棄すると宣言した寧辺には、ウラン濃縮施設も建設中の軽水炉もある。「新年辞」の方針の通りだと、寧辺のウラン濃縮施設や建設中の軽水炉は破棄できないことになる。かつて朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)が建設していた咸鏡南道新浦(ハムギョンナムドシンポ)市の琴湖(クモ)地区にある軽水炉はまだ廃墟のままであるので、寧辺に建設中の軽水炉は特に破棄できないはずだ。寧辺のウラン濃縮施設は破棄できたとしても、他の場所にあるウラン濃縮施設を維持しようとするだろう。

金正恩はウラン濃縮の道は捨てない

 「新年辞」の通りだと、米国がウラン濃縮施設や「核の平和利用」の破棄を要求しても、北朝鮮は受け入れられないことになる。第2回米朝首脳会談が物別れに終わった原因の一つは、寧辺以外の核施設の破棄をめぐる米朝の見解の違いであった。会談後の記者会見でトランプは「寧辺の施設が巨大であっても我々の望みには不十分」と語った。また、米朝首脳会談の拡大会議に参加した北朝鮮の外務大臣である李容浩(リ・ヨンホ)も、会談後の記者会見で「米国側は、寧辺地区の核施設を廃棄するほか、もう一つしなければならないと最後まで主張」したと語った。寧辺以外の核施設に、ウラン濃縮施設が含まれることをトランプは認めている。

 北朝鮮がウラン濃縮施設を破棄しないとなると、高濃縮ウランを使った核爆弾を製造する危険性は常に付きまとう。イランと異なり、北朝鮮はすでに核爆弾の製造に成功している。米国がウラン濃縮施設の破棄を求めるのは当然であろう。これに対して李容浩は、2018年8月8日にイランを訪問してアリ・ラリジャニ国会議長と対話した際、「米国が我が国に対する敵意を捨てることはないと分かっており、我々は核技術を保持する」と語ったと報じられている。現在のところ、北朝鮮は、すべてのウラン濃縮施設の破棄を受け入れる準備があるようには思えない。

制裁の「全面的な解除」か「一部解除」か

 米朝が合意できなかった要因として、もう一つ問題になっているのが、北朝鮮側が求めたのが対朝制裁の「全面的な解除」か「一部解除」かである。トランプは北朝鮮が対朝制裁の「全面的な解除」を求めてきたと言っている。ただし、李容浩は「国連制裁決議11件のうち、2016年から2017年までに採択された5件、そのうち民需経済と人民の生活に支障を与える項目」を「部分的制裁解除」として提案したと語った。

 北海道大学の鈴木一人教授によるGLOBE+の論考や2019年3月2日付ニューヨークタイムズ(電子版)の記事によると、李容浩の方が正確だ。2006年からの北朝鮮に対する国連安保理制裁決議のうち、北朝鮮側が解除を要求したのは、多くとも2016年以降の決議だけのようである。さらに、セカンダリー・サンクション(二次的制裁)によって国連安保理制裁決議の罰則の役割を果たすアメリカの独自制裁の解除は要求していない。北朝鮮が要求したものは全面的な制裁解除とは言い難い。

 これは鈴木一人教授が指摘するように、制裁に対するトランプ政権の認識が北朝鮮側とは異なることに起因すると考えられよう。北朝鮮側が解除を要求した国連安保理制裁は、トランプ政権が最も力を入れていたため、全面的な制裁の解除とトランプは受け取ったのかもしれない。

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