ハノイでの米朝首脳会談後、帰国の途に着く金正恩委員長(写真:AFP/アフロ)

 ハノイで行われた第2回米朝サミットは合意書に調印せずに終了した。北朝鮮による核兵器開発・生産の凍結、朝鮮戦争の終結に向けた準備の開始等では話が進展したもようながら、トランプ大統領は、保有核の廃棄まで含めた要望を完全には受け入れない北朝鮮に対する経済制裁の全面解除を拒否したため、ただ席を立ったと説明した。

結論を急いだ金正恩委員長とその変節

 今回、結果を急いだのは北朝鮮であった。「非核化に合意する意思がなければここには来なかった」と自身初となる外国メディアの質問に答えた金正恩委員長は、国連の経済制裁で国民が疲弊していることに加え、昨年のシンガポール会談以降の経済開放への準備の進展、「軍事から経済へ」と内政の舵を切ったこともあって、その全面解除は実現までの道筋を示すだけでも必要であった。

 これに対し、トランプ大統領は「スピードは重要ではない」等の“合意なしリスク”を意識した発言をしていた。しかし、両者とも100%ではなくともかなり踏み込んだ合意を予想していたのは、同大統領が記者会見で合意文書の準備が出来ていたことに触れた事実からも窺われる。

 この両者の駆引きに一石を投じたのは印パ紛争だったようだ。首脳会談前日にインドの空爆を受けたパキスタンは、軍事力で劣勢にあるにも拘らず翌日反撃に出ると同時に核戦争回避のための対話を呼びかけた。直ちに国連安保理の開催など欧米中等が危機回避のために動いたが、対象はテロリストに対するもので核保有国である両国自身への対応ではなかった。金委員長は首脳会談の最中に核保有国の強みを目撃したのである。

 そもそも核関連施設を完全には公表していない北朝鮮は、今回の会談でも全てを一度に曝け出すよりも開発・生産の凍結で合意し、その実効性確認の段階で全施設について、順を追って査察を受け入れるというロードマップを持っていた可能性が高い。朝鮮戦争の終結と経済成長を視野に入れた金委員長にとって、核は対米攻撃ではなく地域紛争発生時の「自衛のための抜かずの宝刀」であれば十分で、それには保有数の拡大も運搬手段の進歩も不要だからだ。

 経済支援の回復と核関連施設の廃棄がパラレルに進みさえすれば、米国を中心とした資本主義経済の一員として平和で安定した国となり、やがて核は無用の長物となる。トランプ大統領もかつては米国と戦ったベトナムを欧米の支援を受けて急成長した先例として取り上げている。

 第2回首脳会談はそのための道筋をつけるための場であり、シンガポールの故リー・クアンユー首相のような独裁型の資本主義の導入で経済再建を目指そうとする金委員長には勝算もあっただろう。この流れは、米国だけでなく中国、韓国、また会談の2日前に外相がホーチミン市で交渉進展を予想するかのような発言をしたロシアも容認していた筈である。

 しかし、会談2日目(2月28日)のランチと調印式をキャンセルして予定を早めたトランプ大統領の記者会見によれば、金委員長は経済制裁の全面撤廃の一方、核関連施設の廃棄は主力の寧辺のみと主張して、両者の隔たりは埋まらないということだった。交渉の最終段階で金委員長は変節したのである。これには2つの理由が考えられる。

続きを読む 2/3 北朝鮮の将来に横たわる二つのリスク

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