アジア最高の財務大臣に選ばれたインドネシアのスリ・ムルヤニ氏

 インドネシアにおいては、スリ・ムルヤニ財務相の来歴が興味深い。米国イリノイ大学で財政学を専攻し、博士号を取得。インドネシア大学で教鞭をとったのち、インドネシア経済政策の司令塔である国家開発計画省の長官を務めた。2005年にスシロ・バンバン・ユドヨノ政権で財務大臣に就任し、経済調整担当大臣を兼務し、経済政策の司令塔となった。政府債務の圧縮、国債の格付け改善、そして汚職撲滅に辣腕を発揮した。改革の成果の一例として、同氏の在職期間中の2005年から2010年にかけて、租税収入がほぼ倍増したとされる。彼女の活動は国際的にも知られ、英国で出版されている『エマージング・マーケッツ』誌で「アジア最高の財務大臣」に選出されるなどした。

 ただし、連立与党の一角を占めたゴルカル党の党首を務める有力実業家と衝突した後、2010年に世界銀行専務理事に転出した(以上の詳細は、佐藤百合『経済大国インドネシア』に詳しい)。

 2014年にジョコ・ウィドド政権が発足した後も世界銀行にとどまっていたが、2016年の2度目の内閣改造に伴って財務相に復帰した。ジョコ政権は、発足当初こそ高い人気に支えられていたが、経済成長に陰りがみられた中、国内外で知名度の高いスリ・ムルヤニ氏を起用し、経済政策のテコ入れを内外にアピールした格好といえる。就任直後から、資産を海外に秘匿する可能性のある富裕層に対する恩赦措置などを実施して税収の増大のために活躍している。

比ドゥテルテ政権を支える歴戦のエコノミストたち

 フィリピンの現ロドリゴ・ドゥテルテ政権では、財務大臣と予算管理大臣の二人が以前の政権の閣僚経験者である。また、国家経済開発庁長官(社会経済計画大臣兼任)のアーネスト・ペルニヤ氏の存在も興味深い。

 同氏は、米国カリフォルニア大学バークレー校で経済地理学の博士号を取得、フィリピン大学経済学部やアジア開発銀行などに勤務した。2004年には、当時のグロリア・マカパガル・アロヨ政権に対して財政危機を訴えた『深化する危機』の共著者となった。その後、アロヨ政権は財政危機を宣言し、一連の財政改革を行った。

 2015年に発足したドゥテルテ政権は、麻薬対策などで極めて強硬な姿勢を取っている一方、税制改革など、積年の課題にも取り組んでいる(詳細は、高木「21世紀のフィリピン政治」)。ドゥテルテ政権の経済改革を支える経済チームには、過去30年近くにわたってフィリピン経済の運営に何らかの形でかかわってきた人々の声が反映されている点を見過ごすことはできない。

政権が変わっても、取り組むべき経済問題は変わらない

 上記の3人いずれにも共通するのは、米国の有力大学に学び、大学で教鞭をとれるだけの学識を有することと、多国籍企業や国際機関の指導者と直接渡り合える国際性である。政治体制の変動や、政権交代があっても、こうした経済閣僚が必要とされる背景には、様々なグローバル・バリュー・チェーンを通じて国際経済に深く結びついた東南アジア各国経済の実態がある。本稿で取り上げた人々の活躍は、経済の現実を認識し、より多くの人に裨益するような投資や経済成長を実現するために必要な人材の特徴を如実に物語っている。

 政治の担い手の変化にかかわらず、政権が直面する課題は大きく変わらない。しかしながら、新政権は往々にして新しい課題に取り組み、格差是正などのやるべき課題を先送りする。そうしているうちに、社会や経済のひずみは広がり、人々の不満が高まっていく。そうなる前に手当てができるのか。選挙の年、仮に与野党対立の構図が変わらないにせよ、内閣改造が起きる可能性は極めて高い。選挙に引き続き、各国の政策当事者の動向に注目していきたい。

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