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その妻はイスラエル系という複雑な関係

 エルサルバドルはカトリックを中心にキリスト教徒が圧倒的多数を占める。ムスリム人口は多く見積もっても2万。となると、ムスリムは全人口の1%にも満たない。たとえ、ナジブ・ブケレがムスリムだとしても、イスラームという宗教が選挙結果に影響を与えたとは考えづらい。

 ただ、エルサルバドルには約10万人のパレスチナ人コミュニティーがあるとされ、しかも、経済的・政治的に成功した家系が少なくない。彼らの経済力や政治力がブケレの大統領当選に一定の影響を与えた可能性は否定できないだろう。

 とはいえ、彼が親パレスチナというわけではどうやらないらしい。イスラエルの新聞は、彼の妻がユダヤ系の血を引いていることなどを挙げ、彼が親イスラエルだと主張している。

 さらにいうと、2004~09年までエルサルバドルの大統領を務めたエリアス・アントニオ・サカ・ゴンサレスもパレスチナ系エルサルバドル人である。彼の一族はもともとカトリックで、20世紀初頭にベツレヘムから移住してきたと言われている。ただし、彼自身は熱心な福音派のプロテスタントだそうだ。

本国に先駆け、中米で誕生した3人のパレスチナ系大統領

 なお、中米でのパレスチナ系大統領はこのサカが初めてではない。1998~2002年までホンジュラス大統領を務めたカルロス・ロベルト・フローレス・ファクーセもベツレヘムから移住してきたパレスチナ移民の子孫である。ここからも分かるとおり、パレスチナ人の移住はエルサルバドルやホンジュラスなど中米に集中しており、南米だとチリに多い。

 ホンジュラスでは2017年の大統領選挙で現職大統領と争って惜敗したサルバドル・ナスララもパレスチナ系だ。仮に彼が当選していたら、中米は4人もパレスチナ系大統領を輩出したことになる。ちなみに、ナスララはカトリックだが、彼の名前「ナスララ」はアラビア語で「アッラーの勝利」を意味する。レバノンのシーア派武装組織ヒズバッラー(ヒズボラ)の指導者、ハサン・ナスラッラーのナスラッラーと同じである。

 彼らの故郷パレスチナでは、マフムード・アッバースがいちおう大統領を名乗ってはいるが、いまだまともな国家が樹立される気配すらない。それなのに、一足早く遠く中米でパレスチナ人の大統領が3人も誕生していたわけだ。

 実は中東以外で最大のアラブ人コミュニティーがあるのは南米ブラジルである。その人口は1200万とも言われ、なかでもレバノン人とシリア人がそれぞれ700万人、400万人と多数を占めている。レバノンの人口が約600万人なので、本国よりもブラジルに住むレバノン人のほうが多いのである。