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(写真=Abaca/アフロ)
ラテンアメリカにおいてアラブ系のリーダーが相次いで誕生している。これが新たな嵐のタネになる可能性がある。レバノン系のパラグアイ大統領は同国の在イスラエル大使館をテルアビブに再移転した。レバノンでは、カルロス・ゴーン氏を大統領に推す声が上がる。

 先日、新しいアラブの大統領が誕生したとのニュースをみた。といっても、中東やアラブ諸国で新しい大統領が選ばれたわけではない。実は、中東から遠く離れた中米、エルサルバドルでの話である。エルサルバドルで2月3日、前大統領サルバドル・サンチェスセレンの任期満了に伴う大統領選挙が行われ、前サンサルバドル市長のナジブ・ブケレが当選したのだ。

エルサルバドルの新大統領はアラブ系

 ブケレは弱冠37歳、革ジャンがトレードマークとされている。選挙戦ではSNS(交流サイト)で汚職撲滅や治安改善などを訴え、既存の政党に不満をもつ国民の支持を獲得したという。

 今述べたとおり、次期大統領ブケレはアラブ系、より厳密にいえば、先祖がパレスチナからの移民なので、パレスチナ系エルサルバドル人となる。

 アラブ系の大統領がアラブ諸国以外で生まれたのはこれが初めてではない。1989~99年までの10年間、アルゼンチンの大統領を務めたカルロス・メネムもシリア移民の子であった。メネムは、経済政策の破綻で晩節を汚した感が強いが、アラブ系移民としては出世頭と言えよう。

 なお、実はメネムはもともとムスリムであった。アルゼンチン憲法には、大統領はカトリックでなければならないという規定があったため、メネムは大統領になるためにイスラームからカトリックに改宗したと言われている。ちなみに、この規定はメネムが大統領であった1994年に廃止された。

 一方、ナジブ・ブケレの一族はもともとキリスト教徒で、20世紀初頭にエルサレムから移住してきたと言われている。彼の父で、実業家として知られていたアルマンド・ブケレ・カッターンは、キリスト教からイスラームに改宗し、サンサルバドルのモスクでイマーム(礼拝の先導者)を務めていた。ナジブ自身はみずからの信仰についてカトリックだと述べているが、彼の父の信仰から、また大統領選中に彼がモスクで礼拝している写真が流れるなどしたため、ムスリムではないかとも言われている。中東のアラビア語メディアは、こぞって彼の名をアラビア語でナジーブ・アブー・キーラと表記し、中米最初のアラブ系ムスリム大統領と期待感を滲ませていたが、真相はいかに。