ハンガリーも中国依存

 ハンガリーがASEMで造反した理由も、経済だ。同国のビクトル・オルバン首相はEUきっての親中派である。同氏は2017年11月、中国の李克強(リー・クォーチャン)首相と中東欧15カ国の首脳を首都ブダペストに招いて「16プラス1サミット」を開いた。

 オルバン首相は、EUが重視する三権分立や報道の自由の原則に批判的な右派ポピュリスト。近年はEUとの間で摩擦が絶えない。ハンガリーは中国との経済関係を緊密化し、インフラ整備の資金を受け入れることができれば、EUへの依存度を減らすことができる。

 「16プラス1首脳会議」でオルバン首相は、「今や、東アジアの星は絶頂期を迎えている」と中国を持ち上げた。さらに「疲弊し、老いさらばえた西欧諸国には、もはや中東欧諸国のダイナミックな成長を支援する資金がない。このため我々は中国の資金とテクノロジーを必要とする」と述べた。

 つまりハンガリーも中国によるインフラ投資を頼みの綱としているため、南シナ海問題をめぐる中国を怒らせるEUの決定に反対したのだ。

 当時ドイツの外相だったジグマー・ガブリエル氏は、ギリシャとハンガリーの造反について、「一部の加盟国が中国と対立したくないと考えたために、EUが共同歩調を取ることができなかった」と不満をあらわにした。このように中国マネーは、EU加盟国の態度にすでに影響を及ぼし始めている。

 もしも他の中東欧諸国が中国マネーに幻惑されて一帯一路に参加し、ギリシャのまねをして中国の政策を追認するとしたら、EUの結束は今以上に揺らぐ。ドイツが一帯一路に強い危機感を抱いているのは、そのためだ。

ドイツ大統領が中国の香港政策を公に批判

 ドイツの政界では、中国の対香港政策に対する批判も強まっている。フランク・ヴァルター・シュタインマイヤー大統領(社会民主党=SPD)は昨年夏、珍しく歯に衣(きぬ)を着せぬ表現で中国を批判した。

 同氏は公共放送局・第2ドイツテレビ(ZDF)とのインタビューで「中国は2020年6月に香港で国家安全法を施行した。これは香港の憲法に違反するばかりではなく、国際的な取り決めにも違反するものだ」と述べた。

 さらに同氏は「この国際法違反に対する我々の怒りは、一時的に終わるものではない。もし中国政府が、欧州の憤りはすぐに下火になると考えて国家安全法を撤回しない場合、中国と欧州の関係は永続的に悪化するだろう。これは中国にとって利益ではないはずだ。私は中国が国家安全法について考え直すよう望んでいる」と述べた。

 同国のハイコ・マース外務大臣(SPD)も「中国が国際的な取り決めを守っているかどうか、EUは結束してチェックしなくてはならない」と発言。

 緑の党のカトリン・ゲーリング・エッカート院内総務は、「ドイツ政府は中国に対する圧力を高めるべきだ。私はメルケル首相がなぜ国家安全法について沈黙しているのか理解できない」と述べ、政府の中国に対する態度が甘すぎると批判した。来年に予定される総選挙のあと連立政権入りすると予想されている緑の党は、中国での人権問題について最も舌鋒(ぜっぽう)が鋭い政党だ。

 さらにドイツ政府は国家安全法の施行以降、「政治的迫害を受けている」と主張する香港市民の亡命を認めた。

 同国の公共放送局「ドイチェ・ヴェレ(DW)」は、「国家安全法が施行となって以来、3人の香港市民がドイツへの亡命を申請した。連邦移民難民局(BAMF)は、2020年9月にそのうちの1人の亡命申請を承認し、ドイツでの滞在を許可した。他の2人の申請は却下した。2020年1月から9月までに、中国・香港から416人がドイツに亡命を申請し、そのうち61人が政治的亡命を認められた」と報じている。つまりドイツ政府は、「香港では一部の市民が政治的理由で迫害を受けている」と判断したのだ。香港特別行政区は、「内政干渉だ」としてメルケル政権の決定を厳しく批判した。

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