納得がいかない! 22年第3四半期のGDP伸び率「2.9%」

12月の状況が、これまでにお話しいただいたような状況だったとすると、政府が発表したGDP(国内総生産)の数字に違和感を覚えます。22年10~12月の実質GDPの前年同期比伸び率を2.9%増としました。

 11月時点では「(体感では)1990年以来32年ぶり」(関連記事「中国経済は春から回復、再び世界経済のアンカーに」)と感じられるほど厳しい状況でした。12月の生産、投資などの指標の値は、減少幅が11月より縮小したとはいえ前月を下回る水準。であるにもかかわらず、22年7~9月期の3.9%増から1ポイントしか落ちていません。

瀬口氏:おっしゃる通りです。中国のエコノミストもみな納得していません。

 まず、中国政府は10~12月の実質GDPを7~9月期比「横ばい」(季節調整済み前期比の伸び率が0%)と説明しました。この「横ばい」は全く実感に合いません。11月は、感染を抑えるためのロックダウン(都市封鎖)が全国各地で経済の足を引っ張っていました。そして12月は、前代未聞の感染大爆発が起きました。であるにもかかわらず、10~12月期が7~9月期から横ばいというのはおかしな話です。

瀬口 清之(せぐち・きよゆき)
瀬口 清之(せぐち・きよゆき)
キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹 1982年東京大学経済学部を卒業した後、日本銀行に入行。政策委員会室企画役、米国ランド研究所への派遣を経て、2006年北京事務所長に。2008年に国際局企画役に就任。2009年から現職。(写真:加藤 康、以下同)

 また、10~12月の成長率2.9%における寄与度を見ると消費が0.2%、外需が-1.2%、投資が3.9%です。7~9月期における寄与度はそれぞれ2.0%、1.1%、0.8%でした。消費と外需の寄与度が低下している一方、投資の寄与度だけが0.8%から3.9%に大幅拡大しているのも不可解です。

 投資の内訳を見ると、投資全体の3分の2を占める製造業の投資が1~9月累計前年比9.4%増から1~12月同9.1%増に下がっています。全体の4分の1をなすインフラ投資こそ同8.9%から同9.4%に伸びたものの、1割程度を占める不動産開発投資は同-8.0%から同-10.0%に縮小しています。投資全体の伸びと内訳の項目ごとの伸びを合わせた数値とが合致しないのです。

 私がヒアリングしたすべての中国人エコノミストが22年10~12月期のGDPの値にこうした疑念を抱いていました。唯一考えられることとして、中国のGDPは投資の中に在庫投資を含めるため、12月に在庫投資を大きく伸ばした可能性が指摘されています。ですが、それにしても投資の寄与度が大きすぎるとの見方に変わりはありません。

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