死亡者数もかなり低く抑えられたと推定されます。中国現地の従業員数が数千人規模のいくつかの日系企業の責任者に話を聞いたところ、3親等以内の親族(配偶者の親族を含む)に死者が出た従業員の数は最大3人にとどまりました。死亡者の多くは80歳以上の高齢者とのことです。

 以上のような状況だったため、企業や役所のオフィスも工場も稼働が停止することはありませんでした。12月の経済統計を見ると、生産、投資の指標は低下傾向が続いていますが、低下幅は10月から11月にかけての落ち込みより緩やかになったことが見て取れます。中でも消費の前年同月比マイナス幅が縮小し、改善に向かって反転し始めたことはサプライズでした。12月のすさまじい感染爆発を目の当たりにしていただけに、多くのエコノミストが予測していませんでした。

 23年1月になると、回復への足取りがさらに明らかに。北京は月初から通常モードに。先ほど死者数を聞いた企業に、春節直前または1月末時点で「新型コロナウイルス感染」を理由に欠勤している従業員の数を聞いたところ、どの企業も「ゼロ」と回答しました。他の大都市の状況も1月中旬には北京に追いついたため、1月下旬以降、感染者を見かけることはまれ。病院は、外来患者がほとんど待つことなく診察を受けられる状態になりました。

農村での感染爆発と収束が都市と同時だったわけ

 春節の連休に入ると、飲食店はどこも満席。観光地は大混雑。多くの観光地で訪れる人の半分程度はマスクを着用していませんでした。航空便も満席が相次いだ。人々は3年ぶりの開放感を味わうことができたのです。

 意外だったのは農村の動向です。PCR検査を実施しなくなり、農民は一般的に感染しても重症化しなければ病院に行かないため公式の統計はありませんが、農村でも都市と同じく12月23日ごろ感染のピークを迎え、1月下旬には収束していたようです。中国疾病予防コントロールセンターの専門家が1月21日、「国内人口の約8割、約11億人が新型コロナウイルスに感染した」と発言しました。これは農村も含めての数字です。

 なぜ、農村における感染の拡大・収束が上海などの都市と同じタイミングだったのか。そのカギを握るのは農民工と、都市の大学で学ぶ学生の動きだったとみられています。政府が12月7日にゼロコロナ政策を実質的に解除すると、あっという間に都市で感染が爆発しました。レストランは閉じ、工事も中断されることに。仕事も暮らしも成り立たなくなった農民工は、その多くが春節の連休が来るのを待つことなく早めに帰省したのです。同じ頃、大学生も、感染が急拡大する都市から避難するように大学に促されて帰省しました。

 これが農村部で、予測より早い時期の感染拡大を促した――。

 さらに、農村部における死者の割合は都市部よりも低く抑えられたようです。これは、重度の基礎疾患を持つ高齢者が相対的に少なかったことが原因と考えられます。都市での死者を見ると重い基礎疾患を持つ高齢者が多くの割合を占めています。基礎疾患を持つ人は農村にも多くいますが、重い基礎疾患を持つ高齢者は、医療基盤が脆弱な農村で長生きすることが難しく、新型コロナウイルス感染とは無関係に早く亡くなります。加えて、農村では高齢者も野良仕事を続けているため、都市の高齢者に比べると体力もあります。このため、残っている高齢者は比較的抵抗力の高い人だったとみられます。

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