ドイツの現政権を担う社会民主党(SPD)はロシアとの経済関係強化が次なる戦争を抑止すると考えてきた。それゆえ天然ガスの供給をロシアに頼る。だがロシアは昨年来、ガスの供給を絞っている。ウクライナ危機をめぐって西欧が対ロ制裁に踏み切れば、ガス供給停止の報復が待つ。ドイツをはじめとするEU各国はようやくガスの国家備蓄や調達先の多角化に動き始めた。

軍事教練に参加するウクライナの市民(写真:AP/アフロ)
軍事教練に参加するウクライナの市民(写真:AP/アフロ)

(「欧州の盟主ドイツがウクライナ軍事NATOに二の足を踏むわけ」も併せてお読みください)

 なぜドイツ、特にSPDではロシアに対して宥和的な姿勢が強いのだろうか。SPDは19世紀に創設された、ドイツで最も長い歴史を持つ政党。労働運動を母体とする。

 その対ソ連(当時)政策の根本は「Wandel durch Annährung(接近することによって社会主義国を変えていく)」という原則だった。1969~74年に首相を務めたヴィリー・ブラントが取った「東方政策」はその典型である。つまりSPDは、キリスト教民主同盟(CDU)のように反共主義を貫き、対決姿勢を取るのではなく、ソ連との貿易や文化交流などを深めることで東西間の緊張緩和を図ってきた。

シュレーダー元首相とプーチン大統領は刎頸の友

 ノルドストリーム(NS)プロジェクトは、独ロ経済関係の緊密さを示す象徴である。ロシア国営ガス大手のガスプロムとドイツの大手エネ企業エーオンやヴィンターシャルなどが、海底パイプラインの建設について2005年に合意した。当時ドイツ首相だったゲアハルト・シュレーダー氏はロシアとの経済関係を深めるため、プロジェクトを全面的に支援した。同年4月11日に開かれた合意書調印式には、シュレーダー首相(当時)とロシアのプーチン大統領の姿があった。

 シュレーダー氏がロシアとの関係を重視した背景には、独ソ戦がソ連にもたらした惨禍への深い反省があった。同氏の父親は1944年、ルーマニアでのソ連軍との戦いで戦死している。稼ぎ手を失ったシュレーダー家は、赤貧洗うがごとき生活を強いられた。同氏は自分の経験に基づいて、「ドイツとロシアが二度と戦争を起こさないようにするためには、貿易などの関係を緊密にする必要がある」と考えたのだ。

 シュレーダー氏は現役の首相時代から、プーチン大統領と「刎頸(ふんけい)の友」ともいうべき間柄になった。プーチン大統領はサンクトペテルブルク出身で、同市で副市長を務めた経験がある。実子がないシュレーダー氏は、同市から2人の孤児を養子として迎え入れている。シュレーダー氏は、プーチン大統領をハノーバーの自宅に招いたこともある。シュレーダー氏が外国の最高指導者を自宅に招いたのは、このときだけだ。

 シュレーダー氏はプーチン大統領と個人的に親しくなった理由として「プーチン大統領がドイツ語に堪能であること」を挙げている。プーチン大統領は1985年から5年間にわたりソ連の秘密警察KGBの将校として、東ドイツのドレスデンで勤務した経験があるためドイツ語を流ちょうに話す。

 だがシュレーダー氏のプーチン大統領への入れ込みようは、多くのドイツ人の首をかしげさせた。シュレーダー氏は2004年、プーチン大統領について「虫眼鏡でじっくり見ても、正真正銘の民主主義者だ」と言ったことがある。ドイツでは多くの人がロシアを強権国家と見なしており、その大統領を民主主義を重視する指導者とは見ていない。

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