2022年の中国経済の浮沈は不動産市場が握っている。同市場の動向は、成長エンジンであるインフラ投資にも影響を及ぼすからだ。政府は不動産市場に対する買い手の信頼を取り戻すべく、不動産デベロッパーが持つ銀行口座の監視・凍結を進めた。中国の経済動向に詳しい瀬口清之・キヤノングローバル戦略研究所・研究主幹に聞いた。
(聞き手:森 永輔)

キヤノングローバル戦略研究所の瀬口清之研究主幹(以下、瀬口):今回は2022年の中国経済のカギを握る不動産市場についてお話しします。この市場の動向は、不動産投資や住宅関連消費のみならず、地方政府の財政を通じてインフラ投資にも影響を与えています。
まずは、1月17日に発表された2021年10〜12月期の振り返りから始めましょう。

キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹 1982年東京大学経済学部を卒業した後、日本銀行に入行。政策委員会室企画役、米国ランド研究所への派遣を経て、2006年北京事務所長に。2008年に国際局企画役に就任。2009年から現職。(写真:加藤 康、以下同)
実質GDP(国内総生産)の成長率は前年同期比4.0%増。これは中国経済をウォッチしているエコノミストが、7〜9月期のGDPなど主要経済指標が公表された直後の10月下旬時点で予想した通りの値でした。ただし、その後に発表された経済指標は弱めの数字を示していたため、上記の公表直前時点では「4.0%に届かないのでは」との見方が広がりました。よって、予想以上に強かったと評価してよいでしょう。
けん引したのは輸出で同17.6%増。「2021年上半期まで」とみられていた代替生産が依然として好調でした。世界には、新型コロナウイルス感染症拡大の影響がやまず、製造業の生産ラインの稼働状況が依然としてパンデミック(世界的流行)前の状態に戻っていないところが数多くあります。中国企業がこの代替生産を担っているのです。
輸出は、地域を選ばず好調でした。中でも欧州、アジア、南米向けで前年同期比20%を超える伸びを示しました。輸出が好調だった品目はパソコン、スマートフォン、マスク、日用品などコロナ禍の下での生活必需品です。
中国企業が生産能力を保持していることが世界経済と世界の人々の日常生活の安定を支えていると言っても過言ではないでしょう。日米欧諸国では反中感情が強いため、こうした点を報じるメディア報道は見当たりませんが。
輸出好調のため製造業の設備稼働率が高く収益も拡大しており、それが設備投資を堅調に伸ばしています。
消費(消費財小売総額)の伸び率は同3.5%と弱含みでした。新型コロナのクラスターが10月以降に散発しています。それぞれのクラスターにおける感染者数は多くはないのですが、中国はゼロコロナ政策を採用しているので、クラスター発生地域で人の移動を厳しく制限し、飲食、旅行、交通に大きな負の影響を残しています。
中国経済に詳しいエコノミストはゼロコロナ政策の先行きについて、生産すなわち「供給」面にはあまり影響しない一方、消費すなわち「需要」面には少なからず影響を与えるという見方で一致しています。迅速かつ大量のPCR検査を中国全域で実施するとともに、厳格な隔離体制を徹底しているため、感染拡大を抑制でき、生産ラインをほぼ通常通り稼働させることができています。
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