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東日本大震災が2011年に起きた時、台湾が200億円を超す義援金を送ってくれました。私は今でもそれが忘れられません。困った時の助けほど、人の心に残るものです。日本政府や民間の行動がもっと拡大し、伝えられるといいですね。

瀬口:そうですね。安全保障や外交では日本と中国の間に国境という一線がありますが、病気の感染、観光、そして経済、社会、文化交流においてこの一線はありません。今回の件で、両国が不可分の関係にあることを改めて認識させられたと思います。「相手の悲しみを自らの悲しみとして、できる限りのことをしてあげたい」。そうした相手から思いやりの心を受けた側は心からの感謝と悦びを感じる。両国の国民がそう感じ合える機会になった気がします。

 この心の原点は元々中国から日本に伝わってきた仏教の「慈悲の心」にあります。日本と中国は伝統精神基盤を共有しているので心と心が通じやすいのです。今回の出来事が令和の時代に日本が進むべき道を示すことになったのではないでしょうか。

中国に学べ、個人情報をいかに利用したのか

新型コロナウイルスの感染拡大を機に、日本企業と中国企業の間で新たに協力できることはありますか。

瀬口:いろいろ考えられます。一つは医薬品の共同開発。今回の新型コロナウイルスやその亜種が再びまん延する事態に備えて、予防薬や治療薬を共同で開発する。

 今回のウイルス禍を、中国人民解放軍が細菌兵器を開発していて、これが研究施設の外に漏れ出した、と見る向きがあります。私はそうは思いません。中国の食習慣上、野生の動物と接触する機会が頻繁にあります。これらの動物が持つウイルスは、ふだんは人に感染しないけれども、時に、人に感染するよう変異することがある。先ほどお話しした1910年の肺ペストも、2003年のSARSも、そうした事態でした。今回も同様だと考えます。

 したがって、将来、似たようなことが再び起こる可能性が残る。なので、日中で情報を共有し、共同で備えを整える。もちろん韓国や台湾に、さらには米国や英国に加わってもらうのもよいでしょう。

中国の医薬品業界の実力はいかほどですか。

瀬口:中国には漢方がありますが、その実力はそれほど高くはありません。しかし、この業界は既得権益化していて、漢方と西洋医学との協力が進んでいません。漢方の技術者は、その都度、たんすのような箱から薬草などを取り出し、手で刻み、調合する状態を続けています。それが、彼らにとって権威なのです。

 一方、日本のツムラ、クラシエ、小林製薬などは漢方薬を西洋医学の精度で調合する技術を持っています。今回の経験が、中国の漢方を家庭でも簡単に服用できる西洋医薬のような一般薬として広げるための日中協力のきっかけになればよいと考えます。

 マスクやトイレの共同開発は商業ベースに乗る協力ができると思います。感染をさける性能が高いマスクや抗菌性に優れた便器ですね。絶対売れるでしょう。

 日本にもメリットがあります。こうした協力をする中で、中国がSARSや新型コロナウイルスの感染拡大で経験したことを教えてもらう。そうすることで、将来、パンデミック(世界的な大流行)が起きても、感染の急拡大を防ぎ、慌てずに対処することが可能になります。

 先ほど、火神山医院に触れました。わずか10日で建設――というスピードに驚きました。この技術も学ぶ価値があるのではないでしょうか。東日本大震災のような大きな災害があった時に、現地に短期間で病院を建てることができれば、多くの人を救うことができます。アフリカで感染症が拡大した時など、国際協力に応用することもできますよね。