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仮に全人代が開催できなかったら、習近平政権の責任を追及する声が上がりますか。

瀬口:中国共産党の中で、全人代が開催できないことをもって習近平政権の責任を追及しようという動きは今のところ見られません。もし、そういう意図があれば、現時点でそうした声が上がっているでしょう。ですが、そうした動きが見られているという情報は聞いていません。

 多くの国民が現状を「非常事態」と認識しており、対ウイルスの「人民戦争」を習近平国家主席のリーダーシップの下で戦い抜く、という意識でいます。「人民戦争」は中国政府がこうした雰囲気を醸成すべく利用したプロパガンダの表現です。これがうまく機能している状況です。

4月に予定されている、国賓としての訪日への影響をどう見ますか。

瀬口:事態が収束しなければ、習近平国家主席の方から延期を申し入れてくるでしょう。中国共産党の最高幹部は、国内で大事が起きている最中に国を離れることはできません。危機管理の最高責任者ですから。この点はどこの国の政治家も同じですね。

 訪日を延期することになっても、日中関係に影響するとは考えていません。むしろ、日本はこれを奇貨として、中国がこの困難を乗り越える手助けをすべきです。そうすれば、改めて訪日が実現した際に、関係を一層強化することができます。

「危機の現場から離れない」という観点では、習近平国家主席はまだ武漢を訪れていません。一方、李克強(リー・クォーチャン)首相が1月27日に武漢入りしました。これが、習近平国家主席の立場を悪くすることはありませんか。「習近平国家主席はいつ武漢を訪れるのか」と注目する向きがあります。

瀬口:私は、それはないと考えます。習近平国家主席が武漢入りして、仮にウイルスに感染し命に関わるようなことがあれば一大事です。同氏が武漢入りするとすれば、事態がある程度安定してからでしょう。

 それに李克強首相は、習近平国家主席に命じられ政権を代表して武漢入りした、という立場だと思います。中国の政治体制では、緊急事態への対応は政府(国務院)が担当することになっています。共産党ではなく。よって、国務院の長である李克強首相、孫春蘭副総理、衛生部長、武漢市長が現場での責任者ということになります。

日本の「中国 がんばれ」を中国が称賛

瀬口:日本との関係について付け加えると、中国で今、日本に感謝し、日本を称賛する声が高まっています。

え、日本を称賛しているのですか。

瀬口:そうです。中国に滞在する邦人を帰国させるべく、安倍政権が1月28日、武漢にチャーター機を派遣しました。この時、マスク約1万5000個、手袋5万ペア、防護メガネ8000個などを支援物資として持ち込んだことが高い評価を受けました。

 この意義について語った、二階俊博・自民党幹事長の発言も中国に好感されています。同氏は「隣のうちが火災に見舞われたとか、急病で困っておられる時に助けに行く。そういう気持ちと同じですよ」。この発言を伝えた動画は中国で200万回も再生されたそうです。

 民間企業もさまざまな支援に取り組んでいます。イトーヨーカドーは1月24日、四川省の成都市政府にマスクを約100万枚寄付しました。これを感謝する投稿がSNS(交流サイト)に数多く上がりました。

 ツムラも駐日中国大使館に500万円を寄付しています。「防護服や医療用マスク・ゴーグルなどの調達にあてていただく予定」といいます。同社は漢方薬の原料の多くを中国に依存していますから、中国の人々の苦しみは他人事とは思えないのでしょう。

 また、日本のドラッグストアの“神対応”も、中国国内のSNS(交流サイト)で数多く取り上げられています。日本を訪れる中国人がマスクを爆買いしています。これに応じて、マスクを値引き販売したというのです。マスク売り場に「中国 加油(がんばれ)」「武漢 加油」「Love China」などと書かれたポップが添えられている写真もアップされています。