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 企業や学校の春節の連休を延長し、2月9日まで新学期の開始延期や出勤停止の措置を取る地方政府が増えています。1月24日の春節休暇の初日から数えると出勤停止期間は17日間に及びます。それも北京、上海、武漢、広東省、江蘇省など20以上の主要省市を含んでいる。業務を停止しているのは工場にとどまりません。多くの店舗が営業も取りやめている。eコマースを通じて商品・飲食を配送する一部の小売・飲食店を除いて生産も消費も止まってしまっているのです。

 17日間にわたって経済がまるまる止まるということは、1年(52週)のうち約4%を失うということです。仮に揺り戻しを考えずに、この影響をすべてかぶれば、通年の成長のうち約4%を失うことになる。1~3月期に限って言えば、90日分の成長のうち17日分、すなわち約20%分を失うことになります。その影響は甚大です。

 この事態がもたらす影響はSARS(重症急性呼吸器症候群)がもたらした影響の比ではないと予測されます。実は、SARS騒動が中国のマクロ経済に与えた影響はそれほど大きくはありませんでした。前の年である2002年の実質GDP成長率が9.2%だったのに対し、2003年はそれを上回る10.0%成長しています。翌2004年も10.2%成長でした。

 2003年実質GDP成長率を四半期ベースで見ると、1~3月期は11.1%、4~6月期9.1%、7~9月期は10.0%。WHO(世界保健機関)がグローバルアラートを発したのが3月12日、終息宣言を出したのが7月5日なので、4~6月期がもろに影響を受けたわけです。それでもこの期間は9.1%成長。2003年通期で見れば、この影響を他の期の成長が吸収して2けた成長を達成しました。

 なぜ、この時はマクロ経済に与える影響がそれほど大きくなかったのか。それは、当時の経済構造が「投資」主導だったからです。03年の実質成長率の内訳を見ると、外需が△0.6%、消費が3.6%、投資が7.0%。当時の中国は高度成長期にあり日本を含む諸外国の企業が労働集約的な仕事をどんどん中国に移していました。SARSの騒動で消費が落ち込んでも、旺盛な投資がこれを補って余りあるほどだったのです。加えて、今回と異なり、出勤停止の措置も取られず、多くの工場、特に沿岸部の工場は通常通り稼働していました。

 今日、中国の経済構造は大きく変化し「消費」主導になりました。19年の実質成長率の内訳は外需が0.7%、消費が3.5%、投資が1.9%です。したがって、消費が落ち込めば、経済全体に多大なインパクトを与えるのです。

 中国の経済規模の拡大が、このインパクトを世界に波及させます。中国のGDP(国内総生産)が世界のGDPに占める割合は03年には4.3%でしたが、19年は16.3%にまで高まりました。従って、中国経済の落ち込みは03年に比べて約4倍の大きさで世界経済に衝撃を与えることになります。

日本企業にはどのような影響が考えられますか。

瀬口:中国に製品を輸出している業種には大きな影響があり得ます。まず自動車関連。それから紙おむつ、衣料などでも影響を受ける企業があるでしょう。ある衣料大手は、製品を中国で製造して、日本で検査し、それを再輸出して中国市場で販売しています。ある消費財メーカーの方は「2月の中国での販売見込み額はとりあえずゼロとするしかない」と話していました。

全人代、訪日の延期もあり得る

経済にそれだけ大きなインパクトが生じるのを覚悟で、習近平国家主席は都市封鎖という思い切った施策を実行したということですか。

瀬口:その通りです。そこまでしないと、このウイルスに対処できないと考えたのでしょう。

3月に予定されている全人代(全国人民代表大会、日本の国会に相当)の開催を危ぶむ声が出始めました。

瀬口:確かに開催が危ぶまれます。今の予定通り、出勤停止が2月9日までで済めば開催できる可能性もあるでしょう。しかし、春節の連休が再延長される可能性も否定できません。感染者の数の増え方がものすごい勢いで加速しているからです。

 加えて、武漢で火神山医院が診療を開始します。新型コロナウイルスの感染者専用の病院で、1000人の患者を受け入れ可能といわれています。この病院で診療が本格化すると、他の病院で断られていた人たちも診療を受けられるようになる。これまで、各病院の収容力が足りず、病院の前の道端で亡くなっている人さえいました。火神山医院の稼働開始は朗報ではあるのですが、病院での診察が受けられるようになることによって新型コロナウイルス感染者がきちんと把握されるようになれば、統計上はこれが感染者数をさらに増やすことにつながります。