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(写真:ロイター/アフロ)

 2019年1月、フィリピン南部のムスリム・ミンダナオ自治区及びその周辺は、希望と失望を1週間のうちに味わうことになった。1月21日、バンサモロ組織法に基づく住民投票が、現在のムスリム・ミンダナオ自治区で実施された。バンサモロ組織法は、この住民投票により設置される予定のバンサモロ・ミンダナオ自治区の自治権限を拡大する法律である。今回の住民投票は、その自治区に加入するか否かを決める2回の住民投票の1回目だった。第2回は2月6日に、北ラナオと北コタバトの各地で実施される。

 第1回投票の結果、現在の自治区は全て新しい自治区に加入することが決まった。さらに、支持派にとっての朗報は、地理的には同地区内にありながら、行政区分上自治区に加入していなかった中核都市コタバト市で、自治区加入派が多数を占めたことである。これで、新自治区には、現在の自治区に、コタバト市が加わることになる。自治区再編は、同地区の新時代を切り開く希望のシンボルとなった。

非合法経済活動が成長の足を引っ張る

 他方、この住民投票から6日後の1月27日、ムスリム・ミンダナオ自治区内のスールー州ホロ島にあるキリスト教教会が何者かに爆破された。住民の9割がムスリムである同自治区内の教会は、これまで何度もアブサヤフグループなどによるテロの対象となってきた。2010年以降に限っても、同教会では5度の爆破事件が起きた(フィリピンの報道機関Rapplerより)。

 さらに、その3日後、今度は、ミンダナオ本島の西端にある中核都市サンボアンガ市のモスクで爆破事件が発生した。いずれの事件についても、犯人の特定に至っていないが、宗教対立を煽りかねず今後の推移を注視する必要がある。

 ただし、専門家の多くは、この地区の暴力の原因を全て宗教に帰する見方には懐疑的である。例えば、暴力事件についての情報収集を活発に行っている国際NGOインターナショナル・アラート・フィリピンは、2011年から2016年までに起きた暴力事件7446件について、その原因を分析、公表している(Conflict Alert 2017 Guns, Drugs, and Extremism: Bangsamoro’s New Wars)。それによれば、暴力事件の原因として最も多いのが「影の経済」と呼ばれる非合法経済活動に関するもので3237件、その次が強盗などの一般犯罪で1480件あり、宗教やアイデンティティに関わるものは1392件であった。

 もちろん、数が少ないから重要でないわけはなく、それはそれとして対処が必要である。しかしながら、ムスリム・ミンダナオ自治区が抱える課題について、常に宗教のみに関心を絞っていると的外れになる可能性があることを示す点で重要である。