市民が示す、アリババ集団トップへの意外な批判
瀬口:最後に、アリババ集団傘下の金融会社、アント・グループについて興味深い話を耳にしたのでお話ししましょう。
2020年11月に上場が突然延期されて以来、親会社であるアリババ集団を創業した馬雲(ジャック・マー)氏が姿を消したりして、世界中から注目されています。
瀬口:政府を批判するマー氏の発言が理由との見方があります。その発言がどれだけ影響したかについてはよく分かりません。しかし、中国の識者の間ではそれとは異なる2つの理由が話題にされています。
1つはアント・グループが取り組む消費者や小規模事業者向けの融資事業が、中国の金融システムに悪影響を与えかねないほど巨大化したこと。同社はこの消費者金融事業を、銀行からの融資を原資に展開していたといいます。そのレバレッジ比率は極めて高く、仮に回収不能になれば、融資した銀行の経営に深刻な影響を与え、システミックリスクを起こしかねない、と当局が懸念したという話です。
中国の識者が言及するもう1つの理由は、アリババ集団の動きです。
規制当局が独占禁止法違反で同社を捜査し始めました。
瀬口:まさに、それに関連する話です。アリババ集団が、顧客の行動を制約する行動をしていたとのこと。具体的には、ログインする際に使用するIDで顧客を見分け、同じ商品でも顧客によって異なる価格を提示していたといいます。長期に取引している顧客には高い価格、新規の顧客には安い価格を。こうすることで、利益を維持しつつ、新規の顧客を増やそうとしたというのです。
これらの理由の真偽のほどはともかく、興味深いのは、この件について、一般の人々の批判の矛先が政府ではなくアリババ集団やマー氏に向かっていることです。「これだけもうけているのに、さらに上場してまだもうけようとするのか」という。ネット上では炎上もみられました。
私が信頼する中国人の友人によれば、中国国内の有識者の多くは、中国の人々は市場経済を代表するマー氏の側に立ち、自由な市場経済を制約しようとする政府の動きを批判するものとみていました。ところが、現実は逆に動いたのです。
背景にあるのは、一向に歯止めがかからない所得格差の拡大傾向と、それが生み出した富裕層への怒りだと考えます。中国政府は、ややゆとりのある小康社会を目指し貧困の撲滅に努めてきました。これは一定の成果を上げ、路上死するような絶対的な貧困はなくなりました。しかし、相対的な格差は拡大する一方です。
そんな中、裕福になれずにいる人々が、マー氏をはじめとする富裕層への怒りをためこんでいる。
米国で2011年9月に起きた反ウォール街デモに似ていますね。「Occup Wall Street(ウォール街を占拠せよ)」「我々は99%だ」をスローガンに中間所得層の人々が富裕層に対する怒りをあらわにしました。「99%」を名乗ったのは、上位1%の富裕層が米国の所得全体の4分の1を稼ぎ、富を独占しているといわれていたからです。
瀬口:まさにその通りです。
市民が怒りを向ける対象はアリババ集団とマー氏だけではありません。アリババ集団と競合する拼多多(ピンドゥオドゥオ)も批判の対象になりました。同社に入社したばかりの女性社員が過労が原因で自殺した事件があったからです。「安い給料で社員を無理やり働かせ、まだもうけたいのか」という批判がネット上で盛り上がりました。
こうした人々の怒りは、トランプ前大統領の支持者が米国政府に対して示す怒りと重なります。中国と米国は同じ社会問題を抱えているといえるのです。
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3/14、4/5ウェビナー開催 「中国、技術覇権の行方」(全2回シリーズ)

米中対立が深刻化する一方で、中国は先端技術の獲得にあくなき執念を燃やしています。日経ビジネスLIVEでは中国のEVと半導体の動向を深掘りするため、2人の専門家を講師に招いたウェビナーシリーズ「中国、技術覇権の行方」(全2回)を開催します。
3月14日(火)19時からの第1回のテーマは、「特許分析であぶり出す中国EV勢の脅威」です。知財ランドスケープCEOの山内明氏が登壇し、「特許分析であぶり出す中国EV勢の脅威」をテーマに講演いただきます。
4月5日(水)19時からの第2回のテーマは、「深刻化する米中半導体対立、日本企業へのインパクト」です。講師は英調査会社英オムディア(インフォーマインテリジェンス)でシニアコンサルティングディレクターを務める南川明氏です。
各ウェビナーでは視聴者の皆様からの質問をお受けし、モデレーターも交えて議論を深めていきます。ぜひ、ご参加ください。
■開催日:3月14日(火)19:00~20:00(予定)
■テーマ:「特許分析であぶり出す中国EV勢の脅威」
■講師:知財ランドスケープCEO 山内明氏
■モデレーター:日経ビジネス記者 薬文江
■第2回開催日:4月5日(水)19:00~20:00(予定)
■テーマ:「深刻化する米中半導体対立、日本企業へのインパクト」
■講師:英オムディア(インフォーマインテリジェンス)、シニアコンサルティングディレクター 南川明氏
■モデレーター:日経ビジネス上海支局長 佐伯真也
■会場:Zoomを使ったオンラインセミナー(原則ライブ配信)
■主催:日経ビジネス
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