2021年のマクロ経済は、2020年の「裏返し」
中国マクロ経済の2021年の展望はどう見ますか。
瀬口:この規制の影響が明ける4~6月期以降、再び成長軌道に戻ると考えます。
ただし2021年の四半期別の成長率の推移は、あまり展望してもしかたありません。2020年はコロナ禍により非常に特異かつ大きな影響を受けました。よって2021年は、いずれの期も2020年の“裏”が出ることになります。
2020年の成長率前年比は1~3月期がマイナス6.8%、4~6月期が3.2%、7~9月期が4.9%、10~12月期が6.5%と推移しました。なので、2021年は、1~3月期は前年の反動で2桁成長。以降は、成長率が下がります。
2021年後半は、世界各国におけるコロナ感染が収束に向かえば、特に外需が失速することが確実です。ワクチンの普及が進み、海外の生産ラインが復調すれば中国での代替生産需要はなくなります。世界的に経済が動き出せば原油などの原材料価格も上昇するでしょう。海外旅行も再び盛り返す。コロナ特需が剥げ落ちるのは確実です。
動き鈍い日本企業、欧州は中国との投資協定に合意
中国市場における日本企業の動きで注目するものはありますか。
瀬口:日本企業の多くが慎重になりすぎているのが気になります。消費の伸びが予測より低かったとはいえ、GDP成長率寄与度が2.6%というのは他国に比べて大きな数字です。投資も堅調。その中国市場における日本企業の動きが、欧米企業に比べて鈍い。日本企業の本社経営層は中国市場の動向がつかめていないのではないでしょうか。
現地の駐在員が欧州企業の動向をみて、「我が社も中国にR&D拠点を設けましょう」と提案しても拒否されるといったケースが増えています。
6社の日本企業が華為技術(ファーウェイ)との取引を停止したという話も耳にしました。米政府が新たに講じた輸出規制に違反するのを恐れてとのことです。ところが、実際には違反は存在せず、忖度(そんたく)のしすぎであることが後に分かりました。その点を経済産業省から指摘され、6社のうち5社はその後取引を再開したそうです。
日本企業の動きが鈍い理由は2つ考えられます。1つは、尖閣諸島をめぐる摩擦から生じる中国アレルギーです。メディアも中国に関してネガティブな情報しか流さない傾向が続いています。欧米の一流企業は中国市場への進出を積極化していますが、それを取り上げる報道はほとんど目にしません。この点は日本企業の現地駐在幹部の強い不満となっています。
もう1つは、トランプ政権が取った極端な反中政策です。トランプ大統領(当時)は制裁関税に始まって、退任する直前にも、中国最大手の半導体受託メーカー、中芯国際集成電路製造(SMIC)などを輸出規制リストに追加するなどしました。こうした米国の動きが、対中ビジネスを拡大すれば対米ビジネスで支障が生じるかもしれないとの懸念につながっているようです。
中国ビジネスに詳しいある日系メガバンクの幹部は、日本企業の中国ビジネスに対する米中摩擦の影響はファーウェイを除きほぼ皆無と言っていいと述べています。こうした中国現地の実態を知らない社外取締役が本社役員会などで慎重論を述べることが、日本企業の積極的なビジネス展開の障害になるケースが最近多くなっているとの声も耳にします。
いずれも多くの日本企業でみられる特徴ではありますが、中国現地での情報収集不足が原因で消極的な姿勢を取り続けるのは得策ではありません。新たなビジネスチャンスを得られないだけでなく、既得のビジネスまで欧米企業に奪われることになりかねません。
EUは2020年末、中国と投資協定を結び、ビジネス関係を拡大させる土俵を整えました。
瀬口:おっしゃる通りです。中国は「TPP11(包括的かつ先進的TPP協定=CPTPP)」への加入も積極的に検討する意向を習近平国家主席自身が表明しました。今年の経済政策の基本方針である中央経済工作会議の決定の中にもその方針が明記されています。これらの事実が中国政府の本気の姿勢を物語っています。日本としても中欧投資協定の合意内容を参考にしながら、今後の対応を検討することが急務となっています。
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