感染の再拡大を懸念

消費はなぜ伸び悩んだのですか。

瀬口:これまでにご説明したように、中国はコロナ禍の拡大を抑え込み、経済を回復させてきました。消費も10~11月までは、そのトレンドに乗っていた。ブレーキがかかっていた飲食、旅行、小売りも国慶節の頃から勢いを取り戻し始めました。

 しかし、12月に入って厳冬要因も加わって、再び感染が拡大し始め雰囲気が暗くなったのです。

 中国政府は国内では徹底した封じ込めができます。それでも“輸入コロナ”を完全に防ぐことは困難です。帰国者などが持ち込むウイルスを根絶するのは難しい。空港で実施したPCR検査では陰性だった帰国者が、帰宅した後に体調不良を訴え、再検査すると陽性だったというケースがありました。この帰国者は、陽性と判明するまで、他人と接触するし、外食もします。これが感染を拡大させることになりました。

 加えて、冬になり、ウイルスに感染しやすい環境になりました。これに伴う感染拡大は特に農村部において顕著です。

 例えば河北省の石家庄で300人規模のクラスターが発生。河北省内の他の都市にも伝播しました。これを受けて政府は同市をロックダウン(都市封鎖)。河北省と北京との出入りも厳しく制限しました。北京から地方へ向かう高速鉄道は、河北省内に位置する駅には停車せずに通過します。

 河北省から北京に通勤する人々は鉄道が使えないので、バスを利用するしかありません。そのバス通勤も北京に入る際に体温を測られ、PCR検査の結果を示すよう求められます。PCR検査の結果には有効期間があり、これを過ぎれば改めて検査を受ける必要があります。河北省から北京に通勤するビジネスパーソンは北京で働く人全体の20%を占めるといいます。

春節、全人代を控え、北京への出入り規制を強化

 これだけの対策を講じても、感染を完全に封じ込めるのは容易ではありません。北京でもちらほらと感染者が確認されるようになりました。政府はさらなる拡大を懸念し、北京への出入り規制を厳しくする措置を相次いで講じています。

 中国は2月11日から春節の連休に入ります。政府は「帰省を控えるように」との指導を発しました。この措置により、帰省する人は例年の2~3割、あるいはそれ以上減少するとの予想が出ています。帰省を諦める人が増えているのですね。理由は2つあります。1つは、いったん居住地域の省市から外に出てしまうと、戻るのにかなり苦労すること。もう1つは、検査で陽性が判明すると、姓と年齢、自宅住所と所属先が公表されること。匿名とはいえ、分かる人には分かってしまいます。中国でも、感染者に冷たい目が向けられることがあり、それを恐れる人は少なくありません。

 この公表は少なからずプレッシャーになっており、人々に慎重な行動を促しています。人々の反発を呼びそうな措置ですが、不満を示す人はほとんどいません。周囲が行動を慎重にすれば、自らの安全につながることを多くの国民が理解しているからです。

 他方、戻るのが大変でも帰省したい人はいます。彼ら・彼女らの中には、春節が現実に近づいて規制が講じられることを恐れ、1月半ばくらいから北京を“脱出”する人が出始めているようです。

 北京では、3月5日に全人代(全国人民代表大会、日本の国会に相当)が開催されるため、北京の規制は特に厳しく、北京市民に対し「市外にはなるべく出ないように」とのお達しも出ています。

 新たな感染拡大を防ぐ措置は、飲食、旅行、小売りに再びネガティブな影響を与えるとみられます。兆候は既に表れています。消費の動向を示す社会消費品小売総額は10月の4.3%から11月の5.0%に回復していましたが、12月には再び減少し4.6%となりました。2021年の1~2月は厳しい状況が続くでしょう。

 この回復は、春節と全人代が終わり、規制が緩和される3月を待たなければなりません。とはいえ、2021年1~3月期の実質GDPは前年同期比の成長率が2桁に達することが確実。2020年1~3月期の成長率がマイナス6.8%と極端に低かったことが理由です。

次ページ 2021年のマクロ経済は、2020年の「裏返し」