次にインドである。インドは、中国を対象として核兵器を保有しており、このための長射程の弾道ミサイルを既に保有している。2014年には、中国のチベット方面を攻撃するための陸軍部隊「第17軍団(9万人)」を創設して、越境しての対中攻撃を想定し始めてもいる。しかし、さらなる強化に進みつつあり、2020年6月以降、その傾向に拍車をかけている。

 契機となったのは、2020年6月に印中両軍が衝突して、少なくともインド側に20人の死者が生じたこと。中国軍は同年6月以降も、インド側に侵入したままだ。中国軍は、インドとの国境で、特にミサイルや空軍を増強している。

 このような状況の中、インドは9月ごろから、多い時はほぼ3日に1度のペースで非常に多くのミサイル実験を実施してきた。実験したミサイルの中には、長射程の攻撃能力に関わるミサイルが多数含まれていた。

表3:インドが2020年9月以降に実験したミサイルのうち、射程の長いもの
名称 射程 備考
ブラモス・ミサイル
現状の290㎞から400、800、1500㎞に延伸中
超音速ミサイル。戦闘機、艦艇、陸上発射機から発射。ロシアとの共同開発
シャウリア・ミサイル
800~1900㎞
極超音速ミサイル。既存のシステムでは迎撃困難
ニルバイ・ミサイル
1500㎞
インド版トマホーク・ミサイルと呼ばれているもの。この表では唯一、実験失敗。エンジンはロシア製
プリトビⅡ・ミサイル
現状の350㎞の射程を400㎞に延伸
インド初の弾道ミサイルの改良版
ルドラム・ミサイル
100から150㎞
敵のレーダーを攻撃するミサイル。主に敵地に侵入する際に使用する
HSTDV
他と同じ基準では計測不能。アグニ弾道ミサイルで打ち上げ、その後、巡航ミサイルのように飛行可能
スクラムジェットエンジン搭載の極超音速飛行システム。極超音速技術は、これまで米中ロのみが保有

 表3は、昨年9月以降にインドが実験したミサイルのうち、射程が長いもの。これをみると、インドは、射程1000~2000㎞くらいのミサイルを多く開発していることが分かる。また、敵に撃ち落とされないよう、速度の速いミサイルの開発を進めている。例えば、超音速のブラモス、極超音速のシャウリアなどだ。中でもHSTDVは、これまで米国、中国、ロシアしか保有していなかった、変則軌道を飛ぶ極超音速飛行システムの実験に成功した点で注目に値する。この技術で作られたミサイルの弾頭は、既存のミサイル防衛システムでは撃ち落とすのが困難である。

 このようにみてみると、日本、オーストラリア、インドはすべて射程1000~2000㎞の攻撃能力を同時期に開発・導入しようとしていることが分かる。米国も既に同様の能力を保有していることを考え合わせると、日米豪印4カ国がすべて、長射程の攻撃能力保有に向けて同じように動いているのである。

中国対策として有用な長射程の攻撃能力

 実は、このような動きをしているのは日米豪印4カ国だけではない。台湾、ベトナム、フィリピン、韓国なども、長射程の攻撃能力保有に動いている。なぜ、各国は長射程の攻撃能力保有に動いているのだろうか。

 その理由として考えられるのが中国である。2000年代終わりごろから中国は周辺国に対して強引な領土拡大を続けてきた。その活動はどんどんエスカレートしている。

 図1は中国の軍艦、沿岸警備隊(海警)が、日本の尖閣諸島周辺の接続水域に侵入した回数の推移を示す。図2は印中国境において、中国軍がインド側へ侵入した事件の推移だ。

 そして図3はその2つの図を重ね合わせ、傾向を追ったものである。ここから分かるのは、中国は、日本に対してもインドに対しても同時に領土拡大行動をエスカレートさせていることだ。10年前に比べ、明らかに数が増えている。しかも、その傾向は、どちらの地域も2012年、2019年に数が急激に増加するなど、同じような傾向を示しているのである。

図1:尖閣諸島周辺の接続水域への侵入事件数
図1:尖閣諸島周辺の接続水域への侵入事件数
参照:海上保安庁「尖閣諸島周辺海域における中国海警局に所属する船舶等の動向と我が国の対処」(https://www.kaiho.mlit.go.jp/mission/senkaku/senkaku.html )
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図2:印中国境におけるインド側への侵入事件数
図2:印中国境におけるインド側への侵入事件数
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図3:尖閣の動きと印中国境の比較
図3:尖閣の動きと印中国境の比較
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 これまで各国は、中国のこのような強引な活動に対し、米国との役割分担によって対応しようとしてきた。中国が強引に押し込んできたら防御はするが、中国側に対し攻撃する能力は持たなかった。攻撃能力が必要な場合は、米軍の能力に依存してきたのである。

 しかし、防衛しているだけでは、中国側が行動を収めることがない。そこで米国は各国に対し、米国がこれまで担ってきた役割をより一層分担するよう求めるようになった。結果として、各国とも長射程の攻撃力を自ら保有する方向に進んでいる。

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