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米国は中立的な仲介者としての立場を放棄

 「平和から繁栄へ」はパレスチナ側に大きな譲歩を迫るものだ。パレスチナ人たちはこの提案の作成過程から排除されてきた。トランプ大統領はホワイトハウスで提案書を発表する際にもパレスチナ人の代表を招かなかった。トランプ大統領には、イスラエルとパレスチナの間の中立的な仲介者となる意向は、ほとんどなかった。彼の路線は、100%イスラエル寄りだと言っても過言ではない。その態度は、トランプ大統領の就任以来、はっきりしていた。

 その典型的な例が、米国大使館の移転だ。トランプ大統領は2017年末にエルサレムをイスラエルの首都として承認すると発表した。これは同国の歴代の政権が「中東情勢をさらに混乱させる」として、タブーとしてきた措置である。トランプ大統領はこの禁忌をあっけなく破り、ネタニヤフ首相を喜ばせた。

 さらに米国政府は2018年に大使館をテルアビブからエルサレムへ移した。この移転はパレスチナ自治政府を激怒させ、それ以来パレスチナ側は、安全保障に関する問題を除いて、トランプ政権との接触を一切断ってしまった。この措置に対して欧州政府からも批判の声が上がったが、トランプ大統領は馬耳東風だった。彼はイスラエルのタカ派の間では、絶大な人気を誇る。

 さらにトランプ政権は、多くの市民が貧困に苦しむヨルダン川西岸地区やガザ地区への人道支援も切り詰めた。米国は2016年、国際連合パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)に3億6800万ドル(約405億円)を拠出しており、単独の国として最大の支援国だった。だが同政権は、18年にはUNRWAへの資金拠出額を大幅に減らし、19年には完全に停止した。米国の援助停止は、パレスチナ人たちの生活に悪影響を及ぼす可能性がある。

最大の動機は選挙対策

 トランプ大統領がここまで露骨にイスラエルに肩入れする理由は、今年11月に行われる大統領選挙だ。

 米国にはエバンジェリカルズ(福音派)と呼ばれるキリスト教の保守的な一派がある。その数は約8000万人にのぼり、トランプ大統領の重要な支持層となっている。福音派の中には、イスラエルを支援することが、神の意向に沿うと考える人が多い。「クリスチャンのシオニスト」とも呼ばれる彼らは、イスラエル人がヨルダン川西岸地区に入植地を築くことを強く支援している。福音派グループの指導者の1人であるマイク・エバンス氏は、イスラエルの日刊紙とのインタビューで、「今回の提案書は、ヨルダン川西岸地区にある、聖書に記載されている聖地をイスラエルの手の中にとどめるものであり、我々は全面的に支持する」と語っている。

 さらにエバンス氏は「イスラエルにとって、トランプ大統領のような逸材はめったに現れない。今年の大統領選挙で、我々福音派は100%トランプ大統領を選ぶ」と答えている。福音派の間には、「トランプ大統領はイスラエルを救うために神によって選ばれた」と発言する人すらいる。

 こうした米国内の反応を見ると、今回発表された「和平提案」は、トランプ大統領の選挙対策の一環という性格を強く持っていることが分かる。「中東政策の私物化」とも言うべき事態である。1978年に米国が仲介したイスラエルとエジプトの間の「キャンプ・デービッド合意」や、1993年に米国で調印されたイスラエルとパレスチナの間の「オスロ合意」に比べると、今回の提案は隔世の感がある。歴代政権のような、紛争地域に平和をもたらそうという強い意志が感じられず、米国がリーダー国としての器量を失って小粒になったという印象を与える。