それが「10年間で500億ドル(約5兆4500億円)の投資を促す」という項目ですね。
池内:そうです。ただし、これは、仮にパレスチナが同意してプロセスが進んでも空手形になる可能性が高い。米国もイスラエルも自分が出すとは言っていないわけです。昔ならこういう時に「経済大国の日本が出せ」と奉加帳が回ってきたのですが、今はそうでもないでしょう。
イスラエルとパレスチナの和平についての最近の議論で暗黙のうちに前提とされているのは、「湾岸産油国が出す」というもので、特にムハンマド皇太子が率いるサウジが音頭をとって、まずサウジが大きく資金拠出をぶち上げて、子分のような他の湾岸産油国などにも呼びかける、それに対してお付き合いで西欧や日本なども経済支援パッケージを用意する、という流れが考えられていました。
しかし、先ほどお話ししたように、ムハンマド皇太子がどう発言しようが、サウジが国家として乗ってきていない。これではほぼ空手形となることが確実です。
和平案の発表を機に、ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスが動く可能性はありますか。ハマスとイスラエル軍の衝突 を懸念する見方があります。
池内:もちろん反対はしてアピールはしますが、今回の和平案だけを理由にハマスが動くことはないでしょう。
それ以前に、イスラエル軍がハマスへの大規模な掃討作戦をそろそろやる時期だ、という可能性は1~2年前から言われています。これまでも数年に1度の割合で攻撃してきました。ハマスが保有する軍事力が許容範囲を超えたと判断すると、イスラエルは攻撃を仕掛けるのです。
ハマスとイスラエルの関係は、今回の和平案よりも、米国とイランの対立の動向により強く左右されると思います。
ハマスはイランから支援を受けているからですね。 米国が今回の和平案を発表したことで、その中東離れが加速する可能性はありますか。シェール革命が進み、中東産原油への依存度を下げつつある米国は、中東への興味を失ってきているように見えます。シリアからの米軍撤退が話題になるのもこの一環でしょう。「和平案を発表した。米国は責任を果たした」として、退く傾向がさらに強まるのでは。
池内:それはないと思います。今の米国にとって、イスラエルとパレスチナの和平は優先順位が低く、他の政策とは切り離して考えているからです。現在、最も重視しているのはイランとの対決、そこに付随して必要となるサウジの保護。後は、イラクから撤退する前になんとか親米勢力を強化してイランの勢力拡大を食い止めたい。シリアやイエメンで続く内戦での親米勢力への支援はもうやめたい。現地の親米勢力に委ねたいが、なかなか足抜けできない。オバマ政権からトランプ政権にかけて、中東から徐々に引いていきたいという姿勢は継続しています。
最後に、イスラエルとパレスチナの紛争をめぐる中東和平の展望はどうなるでしょう。
池内:今後の和平交渉への機運が一層弱まる可能性があります。米政府が中東政策を大きく変更することはないものの、次のように考える勢力が米国内で強くなるからです。「我々は案を出した。イスラエルは受け入れた。パレスチナは拒否した。受け入れたイスラエルは正しい。イスラエルがやっていることも正しい。これでおしまい」
これは「中東のことにはもう関わりたくない」という米国の一般的な世論にも合致しています。
こうした考え方が広まることで、今後の和平交渉の道が完全に閉じたとは言えないと思いますが、米国が中東和平に積極的に関わることを阻害する原因になることは確かでしょう。
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3/14、4/5ウェビナー開催 「中国、技術覇権の行方」(全2回シリーズ)

米中対立が深刻化する一方で、中国は先端技術の獲得にあくなき執念を燃やしています。日経ビジネスLIVEでは中国のEVと半導体の動向を深掘りするため、2人の専門家を講師に招いたウェビナーシリーズ「中国、技術覇権の行方」(全2回)を開催します。
3月14日(火)19時からの第1回のテーマは、「特許分析であぶり出す中国EV勢の脅威」です。知財ランドスケープCEOの山内明氏が登壇し、「特許分析であぶり出す中国EV勢の脅威」をテーマに講演いただきます。
4月5日(水)19時からの第2回のテーマは、「深刻化する米中半導体対立、日本企業へのインパクト」です。講師は英調査会社英オムディア(インフォーマインテリジェンス)でシニアコンサルティングディレクターを務める南川明氏です。
各ウェビナーでは視聴者の皆様からの質問をお受けし、モデレーターも交えて議論を深めていきます。ぜひ、ご参加ください。
■開催日:3月14日(火)19:00~20:00(予定)
■テーマ:「特許分析であぶり出す中国EV勢の脅威」
■講師:知財ランドスケープCEO 山内明氏
■モデレーター:日経ビジネス記者 薬文江
■第2回開催日:4月5日(水)19:00~20:00(予定)
■テーマ:「深刻化する米中半導体対立、日本企業へのインパクト」
■講師:英オムディア(インフォーマインテリジェンス)、シニアコンサルティングディレクター 南川明氏
■モデレーター:日経ビジネス上海支局長 佐伯真也
■会場:Zoomを使ったオンラインセミナー(原則ライブ配信)
■主催:日経ビジネス
■受講料:日経ビジネス電子版の有料会員のみ無料となります(いずれも事前登録制、先着順)。視聴希望でまだ有料会員でない方は、会員登録をした上で、参加をお申し込みください(月額2500円、初月無料)
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