トランプ大統領が1月28日、イスラエルとパレスチナの紛争を解決するための中東和平案を発表した。中東情勢に詳しい池内恵東京大学教授はこれを「イスラエルが求めるすべてを取り上げ、書き込んだもの」と評する。パレスチナ自治政府のアッバス議長はさっそくこれを拒否。パレスチナが決して受け入れられないイスラエル寄りの提案をなぜこのタイミングで発表したのか。そこには、サウジアラビアのムハンマド皇太子の存在が浮かび上がる。(聞き手:森 永輔)

池内さんは今回の和平案をどのように評価しますか。
池内:「イスラエルが要求していたすべてを受け入れ、それを書き込んだもの」と言えます。

東京大学先端科学技術研究センター教授
専門はイスラーム政治思想史、中東地域研究。
1973年生まれ。96年、東京大学文学部イスラム学科卒業。東京大学大学院総合文化研究科博士課程を経て、2001年に日本貿易振興会(当時)アジア経済研究所研究員。国際日本文化研究センターの助教授・准教授を経て、18年10月から現職。この間に、アレクサンドリア大学(エジプト)客員教授、英ケンブリッジ大学客員フェローなどを歴任。著書に、『【中東大混迷を解く】 シーア派とスンニ派』『イスラーム国の衝撃』など(撮影:加藤 康、以下同)
その主たるものの1つは、東エルサレムの取り扱いです。エルサレムは、イスラエルとパレスチナが帰属を争う重要な土地。これについて和平案は「イスラエルの主権下にある首都であり、分割されることはない」としました。
和平案は同時に、パレスチナが求めてきた通り、「東エルサレム」に首都を置くことができるとしています。しかし、これが旧市街を中心とした歴史的に通常の意味での東エルサレムかどうかは明確ではありません。東エルサレムのパレスチナ人が居住している地域は接収されたりユダヤ人の財団や組織によって買い取られたりして侵食されてきわめて小さくなってしまっていますし、長大な分離壁(安全壁)で取り囲まれ、巨大なユダヤ人入植地ができて、ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区からほとんど切り離されています。
エルサレムの東側の外地域に行政区分としてのエルサレムを拡張して、そこを「東エルサレム」と名付けるという案が以前から提起されています。つまり歴史的にはエルサレムでない場所を東エルサレムと呼んで、そこを首都とするということです。
土地に関してもう1つ大きいのは、イスラエルが占領したヨルダン川西岸地区における入植地について、その大部分をイスラエル領に組み込むとしている点です。1967年の第3次中東戦争でイスラエルが占領したヨルダン川西岸への、ユダヤ人入植地の建設は国際法的に違法とされてきました。これを和平合意によってほぼ全て正当なものとする、というのが今回の案です。
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