米中間の対立が厳しさを増してきている。3月1日には、米中貿易協議の期限が迫る。これに向けて、中国の劉鶴副首相が1月30日に渡米し、米通商代表部のロバート・ライトハイザー代表との協議に臨んでいる。

今の米中間の経済協議をめぐるやり取りを見ると、1990年ごろの日米間の経済摩擦とよく似たところがある。
米国が中国に対し、①巨額の貿易赤字を大幅に縮減せよ、②中国企業が先端技術を米国から盗まない手立てを講じよ、③技術開発などで、中国政府の巨額の補助金をカットせよなどと要求しているが、まさに中国の生きざまを変えるべしと迫っているように見える。ちょうど、1990年代初め、米国が日本に対し、「日本はおかしい国だ、修正主義国だ、だから、日本の生きざまを変えなくてはいけない」と言わんばかりに構造協議を迫ってきたことを思い起こさせる。
構造協議の当時、対日制裁を回避するため、日本側は総力を挙げて対応したが、10年間で430兆円の公共投資を行うことまで約束したのが正しかったのか、今となっては疑問なしとしない。
今日の米中関係はさらに深刻である。経済分野にとどまらず、軍事、政治、社会の全般にわたり、米国国内の中国に対する見方が厳しくなっている。中国にもっとも理解のあるヘンリー・ポールソン元財務長官ですら、中国は今の米国の変化を見誤っている、今はビジネス界も中国に厳しい見方をしており、即時、大胆な政策転換をしないと米中関係は極めて厳しくなると警告を発している。オバマ政権時代の米国は中国の大国化を受け入れ、関与していけば中国も責任ある対応をとるだろうと期待していた。だが、見事にその期待は裏切られ、オバマの対中政策は失敗だったと烙印を押されている。
米国の圧倒的覇権を脅かし始めた中国、これを今のうちに叩かなくてはいけない、というのが米国国内で沸き起こっている主張である。2018年10月のマイク・ペンス副大統領の厳しい対中演説はそうした声を代弁したものであり、米中新冷戦を予言するものだった。その一環として、第5世代(5G)移動通信システムを巡り、華為技術(ファーウェイ)の締め出しを同盟国にも迫っている。
米中貿易協議はまとまり得る
もっとも、ドナルド・トランプ大統領は、そうした主張よりも個人的関係を大事にする傾向がある。習近平国家主席との絆は固く、米中協議は解決可能と述べてきており、3月1日が期限の当面の米中協議はまとまる可能性が十分にあろう。
ただし、トランプ氏自身が米中協議にどこまで目を配る余裕があるのか不明であり、流動的な要素は残されている。2月15日には政府機関の閉鎖問題の期限が待ち構えており、ロシア疑惑の捜査も最終段階を迎えようとしている。さらに第2回目の米朝首脳会談も予定されている。
そして、当面の米中協議がまとまっても、覇権争いをめぐる米中の厳しい対立は長く続いていくことになろう。
元外務省事務次官、立命館大学客員教授、グローバル寺子屋「薮中塾」主宰

1948年大阪府生まれ。1969年、外務省に入省。北米局第2課長時代に日米構造協議を担当。アジア大洋州局長として6カ国協議の日本代表を務め、北朝鮮の核や拉致問題をめぐる交渉に臨んだ。2008年、外務事務次官に就任。2010年に退任し、現在に至る。
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