(写真:KCNA/UPI/アフロ)
(写真:KCNA/UPI/アフロ)

 2020年は北朝鮮とイランの話題で幕を開けたようなものである。1月1日には北朝鮮が、朝鮮労働党中央委員会第7期第5次総会で、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験と核実験のモラトリアムをやめる決定をしたと発表した。米国と対立する姿勢に立ち戻ったのである。いつになるかは分からないが、北朝鮮がICBMの発射実験と核実験を再開する可能性が出てきた。

 1月3日には米軍が、イランのイスラム革命防衛隊のコッズ(クドゥス)部隊のカセム・ソレイマニ司令官たちをイラクのバグダッド国際空港近郊で無人攻撃機によって殺害した。同司令官はレバノンやイラク、シリアなどで活動し、イランで英雄扱いされていた人物である。イランはその報復として1月8日、イラクにある米軍の拠点に弾道ミサイルによる攻撃を行った。

 まるで、イランと北朝鮮が同時に米国と対立したかのようである。もちろん、これは偶然だ。ただし、イランと北朝鮮は、米国では似た者同士の扱いを受ける。ジョージ・W・ブッシュ米大統領(当時)が、02年1月29日に一般教書演説で北朝鮮、イラン、イラクの3カ国を名指しで、大量破壊兵器を保有してテロリストと協力している「悪の枢軸」と批判したことはよく知られている。

「悪の枢軸」は本当か?

 しかし、この3カ国の共通点は米国と対立していることぐらいしかなかった。この3カ国の間に枢軸と呼べるような同盟に近い協力関係があったのかというとかなり怪しい。

 まず、北朝鮮とイラクの間には国交すらない。1980年9月に勃発したイラン・イラク戦争で北朝鮮がイラン側に武器を輸出したため、イラクは同年10月に北朝鮮との国交を断った。それ以来、今でも国交はない。それゆえ「悪の枢軸」発言を真に受けることはできない。

 北朝鮮とイランは実際に国交もあり、軍事協力もあった。しかし、米軍によるソレイマニ司令官殺害に対する朝鮮中央通信の報道は非常にシンプルであった。「過ぎし3日未明、米国はイラクのバグダッド市にある、とある飛行場にミサイル攻撃を加えた。これによって、現場にいたイラン・イスラム革命近衛隊のクドゥス軍司令官とイラク民兵武力の高位指揮官などが死亡した」。

 米国批判もしていない。さらに、イランによる弾道ミサイル攻撃については一切報道しなかった。北朝鮮は明らかに、米国・イランの対立に巻き込まれることを避けている。これでは、北朝鮮とイランの関係も枢軸といえるほどのものかは怪しい。

 そもそもイスラム教シーア派の十二イマーム派を国教とするイランと、宗教の布教を許していない北朝鮮である。この点で見れば、お互いに嫌悪感を持ちそうな関係でもある。なぜ、それほど政治体制が違う両国が協力しているのであろうか。

国連外交のため、北朝鮮がイランに接近

 北朝鮮とイランの国交正常化は1973年4月15日である。イランはまだ革命前のパフラヴィー朝であった。中東でもよく知られた親米国であったパフラヴィー朝イランと北朝鮮が国交を締結したのは、北朝鮮が当時推進していた国連外交と関係がある。北朝鮮は、イランが国連総会で北朝鮮に不利な票を投じないよう関係改善を図った。パフラヴィー朝イランとの国交正常化の共同声明に署名した北朝鮮側の代表は金炅練(キム・ギョンリョン)。同氏は外交部長ではなく、財政部長であった。北朝鮮がイランをあまり重視していなかった証である。

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り4770文字 / 全文6196文字

日経ビジネス電子版有料会員なら

人気コラム、特集…すべての記事が読み放題

ウェビナー日経ビジネスLIVEにも参加し放題

バックナンバー11年分が読み放題

この記事はシリーズ「世界展望~プロの目」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。