ドイツでワクチンの接種が遅れている(写真:AFP/アフロ)
ドイツでワクチンの接種が遅れている(写真:AFP/アフロ)

ドイツのベンチャー企業が世界で最初に承認取得

 ドイツのマインツに本社を置くベンチャー企業ビオンテックは、コロナワクチンBNT162b2を米国のファイザーと共同で開発した。ワクチンの基礎技術はビオンテックのCEO(最高経営責任者)であるトルコ系ドイツ人ウグル・サヒン教授らが考案した。

 ビオンテックはもともと、がんの治療薬を開発していた。2020年1月に経営方針を切り替えて、「ライトスピード(光速)計画」と名付けた新型コロナウイルスのワクチン開発プロジェクトに同社の全精力を傾けた。ドイツ政府も同社に3億7500万ユーロ(約476億円)を融資して開発を支援した。

 世界で最初にBNT162b2を承認したのは英国で、同国の医薬品規制当局が昨年12月2日に緊急承認した。続いて、12月9日にカナダ、同11日に米国、同19日にスイスが緊急承認。12月21日にはEU(欧州連合)の欧州医薬品局も、16歳以上の市民への使用を承認した。

 ビオンテックとファイザーが開発したこのワクチンは、本稿執筆中の1月24日現在、約45の国が承認しており、米モデルナのmRNA-1273と並んで、世界で最も多く接種されている。

 つまりドイツは、米国と並んで世界最初のコロナワクチンを開発した先駆国の1つである。ウグル・サヒン教授は、妻のエズレム・テュレジ氏と昨年1月24日に朝食をとっているときに、コロナワクチン開発プロジェクトを思いついた。開発したワクチンがわずか11カ月で各国の医薬品規制当局から認可を受けるのは、世界の製薬業界できわめて異例だ。コロナ・パンデミックが起こるまで無名だったサヒン教授ら夫妻は、各国のニュース雑誌の表紙に写真を掲載され、一躍メディアの寵児(ちょうじ)となった。コロナ・パンデミックが発生する前の昨年1月3日に約35ユーロだった同社の株価は、12月11日には約106ユーロまで上昇した。

先駆国ドイツでワクチン接種に遅れ

 ドイツ政府は他のEU加盟国とともに、昨年12月27日に予防接種を開始した。メディアは「いま新型コロナウイルスとの本格的な戦いが始まる」と接種開始を大きく取り上げた。

 同国は、感染した場合に重症化したり死亡したりする危険が最も高い80歳以上の高齢者から接種を始めた。連邦軍兵士と医療関係者が全国の高齢者介護施設を車で回り、施設に住むお年寄り約80万人に予防接種を実施している。コロナ病棟で働く医師や看護師、介護施設の職員らも優先的に予防接種を受けられる。その後、接種の対象を70歳以上の市民、60歳以上の市民へと広げていく。

 ところが他の国々に比べて、ドイツでは市民へのワクチン接種が遅れている。英オックスフォード大学のデータバンク「Our World in Data」によると、ドイツで1回目のワクチンを接種された市民の数は147万人(1月23日時点)。同じ先駆国である米国(1739万人)、英国(586万人)、イスラエル(250万人)などに水をあけられている。

 イスラエルはすでに国民の約29%に1回目の接種を行った(コロナワクチンは、約3週間の間隔を取って2回接種する必要がある)。また英国では国民の8.6%、米国では5.3%が予防接種を受けている。これに対し、ドイツでの予防接種率は1.8%にとどまる。日本の製薬会社の関係者は、「ドイツはコロナワクチンを開発した企業がある先駆国なのに、この滑り出しの悪さは意外だ」と語っていた。

 2回のワクチン接種を受け、予防接種を完了した市民の比率は、イスラエルが約11%であるのに対し、ドイツは0.2%と極めて低い。

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