バイデン政権にとってインフレ退治は中間選挙に勝利するための絶対条件だ(写真:AP/アフロ)
バイデン政権にとってインフレ退治は中間選挙に勝利するための絶対条件だ(写真:AP/アフロ)

 インフレは死語になったと思っていましたが、2021年の春ごろから一転して、インフレが経済的にも社会的にも大きな問題となっています。本稿では現在のインフレの原因や今後の見通し、リスクシナリオなどについてお話しします。

原因は好調が持続していた世界経済

 一般的にインフレの原因として指摘されるのは以下のようなものです。新型コロナウイルス感染症の経済への悪影響を最小限にすべく各国政府・中央銀行が大量の資金を市中に放出したところ、その資金が商品市場や不動産市場に流入し物価を押し上げた――。筆者もこの見方に反対ではありませんが、それだけではないと考えます。

 筆者が考えるインフレの理由は、世界経済が一般に思われているより強いこと、インフレに対する警戒感がなくなっていたこと、の2つです。

 筆者は、世界経済は一般に思われているより強いと見ています。確かに外食や旅行、レジャーなど新型コロナ禍の打撃を受けた産業はあります。けれども、そうした産業の不振を補うだけの需要が世界経済にあるのです。

 例えば宇宙旅行です。先日ZOZOの創業者である前澤友作氏が日本人として初めて宇宙旅行に参加しました。つい最近まで想像できなかったことだと思います。これは5Gの導入を皮切りに、さまざまな技術革新のスピードが一段と加速したことによるものです。ドローンは日常のものとなり、車の自動運転も実現が近づいてきました。最近では仮想空間メタバースが話題を集めています。このように、技術革新により魅力的な商品やサービスが絶え間なく生み出される状況は今後も続き世界経済を支えると思います。

 温暖化対策も企業にとってビジネスチャンスとなります。多額の資金が必要ですから。褒められたものではありませんが、地政学リスクの高まりも経済にプラスとなります。各国が軍備の拡大を急いでいるからです。

 このように世界経済はもともと強く、新型コロナ危機を念頭に置いた経済対策は余分だったと思います。

グローバリゼーションとIT化がインフレ警戒感を消した

 インフレへの警戒感がなくなったこともインフレが高じている理由です。筆者が経済や金融市場に関わる仕事に携わるようになったときは、「怖いのはインフレ」でデフレという言葉は一般には使われていなかったと思います。

 これは2度にわたるオイルショックで世界経済が低迷したこと、またベトナム戦争後の米国が財政赤字のためインフレを起こし、米経済が停滞したことなどが理由です。インフレが経済にとっての悪材料となった経験からインフレは警戒すべきものと認識されていました。

 中央銀行の物価目標も変化しました。今は最低2%ですが、当時は最高2%でした。中央銀行の独立性という言葉もまだ意識されていたと思います。しかしその後、気がつくとインフレはよいこと、デフレはだめなこと、と認識が変わり、中央銀行の独立性もいつしか死語になりました。このようにインフレへの警戒感がなくなったことも現在のインフレの原因です。

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