「安倍首相の表情に達成感はみられなかった。首脳2人だけの会談でも進展はなかったのだろう」(袴田氏)(写真:代表撮影/AP/アフロ)
「安倍首相の表情に達成感はみられなかった。首脳2人だけの会談でも進展はなかったのだろう」(袴田氏)(写真:代表撮影/AP/アフロ)

 安倍晋三首相とロシアのウラジーミル・プーチン大統領が1月22日、25回目の首脳会談を終えた。北方領土問題について「進展がなかった」との報道が相次いでいる。私はこれをポジティブに評価している。「歯舞・色丹の2島引き渡し」で妥協すべきでないと考えるからだ。実際は2島引き渡しでさえも困難だと考えているのだが。

 北方領土問題の本質は「主権侵害」である。ソ連(当時)は1945年8月9日、日ソ中立条約に違反して日本に参戦し、北方領土(国後、択捉、歯舞、色丹)にも侵攻。これ以来、北方領土を不法占拠している。ロシアは「ソ連の対日参戦はヤルタ協定に基づくもの」で「大戦の結果、南サハリン(樺太)と千島列島(国後、択捉、歯舞、色丹を含む)はロシア領となった、と主張する。けれども、日本はヤルタ協定の当事者でなく、同協定を受け入れる必要はない。

「日ソ共同宣言を基礎に」は従来の主張との整合性を欠く

 北方領土をめぐる日本政府の現在の方針は整合性を欠くものだ。従来の方針は「4島の帰属を解決し、平和条約を締結する」というもの。これは1993年10月に細川護熙首相(当時)とロシアのボリス・エリツィン大統領(同)とが署名した東京宣言に盛られている。

日本国総理大臣及びロシア連邦大統領は、両国関係における困難な過去の遺産は克服されなければならないとの認識に共有し、択捉島、国後島、色丹島及び歯舞群島の帰属に関する問題について真剣な交渉を行った。双方は、この問題を歴史的・法的事実に立脚し、両国の間で合意の上作成された諸文書及び法と正義の原則を基礎として解決することにより平和条約を早期に締結するよう交渉を継続し、もって両国間の関係を完全に正常化すべきことに合意する。

 ところが、安倍首相とプーチン大統領は2018年11月、「1956年日ソ共同宣言を基礎に平和条約交渉を加速する」ことで合意した。同共同宣言は国後と択捉の扱いには触れておらず、これに基づいて「4島の帰属問題を解決」できるとは考えられない。

ソヴィエト社会主義共和国連邦は、日本国の要望にこたえかつ日本国の利益を考慮して、歯舞群島及び色丹島を日本国に引き渡すことに同意する。ただし、これらの諸島は、日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の平和条約が締結された後に現実に引き渡されるものとする

 この二つの方針の整合性をいかに取るのか期待と懸念をもって今回の首脳会談に注目していた。結果として進展がなかったことに安堵している。もし国後と択捉を交渉の対象からはずす決断をしたなら、国民も国会も納得しないだろう。歯舞と色丹の引き渡しで合意するのなら、1956年の段階で解決できていたのだから。

 加えて、そのような決断をすれば、「強気に押せば、日本は主権問題で安易に妥協する」という悪しき前例を残すことになる。そうなれば、竹島や尖閣諸島の問題にも禍根を残すだろう。

続きを読む 2/2 プーチン大統領も「4島の帰属問題を解決」で合意していた

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