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税関検査の再開で混乱か

 英国にとってEUは世界で最も重要な貿易相手である。英国議会調査局によると、2017年には、英国の輸出額の47%がEU向け、英国の輸入額の53%がEUからだった。英国は、EUとの貿易に関税が全くかからないことで、大きな恩恵を受けている。

 たとえば英国にある自動車組み立て工場は、部品の在庫を最小限に留めておき、受注状況に応じて欧州大陸の部品メーカーから小まめに部品の供給を受ける。これが可能なのは、欧州大陸から英国に部品を輸入しても、税関検査が不要であるためだ。

 だがBREXITによって税関検査が導入されれば、このような「国境を超えたカンバン方式」は事実上不可能になる。特にドーバー海峡を超えて物資を大陸から英国へ運ぶルートは、英国、フランスとも税関職員の数が不足しており、検査待ちのトラックで大渋滞が発生する可能性がある。

メイ大敗で最悪のシナリオが現実化?

 日本などEU域外の企業は、英国をEUへの入り口と見なしてきた。言語が英語であることと並んで、英国がEU加盟国であることは、多くの企業にとって、この国を選ぶ大きな理由だった。英国に進出すれば、EUの全ての国と、あたかも同じ国の中にいるかのように関税なしで産品の取引ができたからである。

 ゆえに、英国がEUから離脱し、EUとの間に関税が導入されれば、日本企業にとっての英国の魅力が著しく縮小する。英国で製造して他のEU加盟国で売る製品の価格競争力を低下させるからだ。

 多くの欧州企業は「合意なしBREXIT(ハードBREXIT)」が起こるという前提で去年から準備を進めてきた。今回、メイ首相が大敗したことで、この最悪のシナリオが現実化する可能性が一段と高まった。

 ハードBREXITは英国民の生活水準に悪影響を与え、グローバル化の勝ち組と負け組を分かつ亀裂をさらに深める。BREXITをめぐる2016年の国民投票は、ポピュリストたちが欧州で収めた最初の勝利だった。英国が抱える全ての問題をEUのせいにし、不正確な情報を国民に伝えて国民投票に勝利したポピュリスト、ナイジェル・ファラージ氏(イギリス独立党=UKIP=の前党首)やボリス・ジョンソン氏(前外相)らの高笑いが聞こえるかのようだ。欧州の混迷は深まる一方だ。