全3614文字

EUは再交渉を拒否

 英国の保守派・強硬派は「メイ首相の案によると、EUが同意しない限り英国はEU離脱を実現できない。これは主権の制限だ」としてバックストップに強く反対してきた。彼らは「EUは北アイルランド問題の解決を引き延ばすことで、BREXITを妨害しようとするだろう」と考えた。

 離脱派が譲れるぎりぎりの線は、バックストップに期限を設けることだ。

 メイ首相はこの点についてEU側と何度も交渉したが、EUはバックストップに期限を設けることを頑として拒んだ。

 英国政府・議会に残された時間は約10週間しかない。この間にメイ首相のEU離脱案に代わる案を下院の議員たちが承認し、EUを説得できるかどうかは未知数である。EUは「離脱案についての交渉を再開するつもりは全くない」という態度を崩していない。仮にメイ首相以外の政治家がEUと再び協議しても、EU側が譲歩する可能性は極めて低い。時間切れとなり、合意なしのBREXITに英国が突入する危険は、刻一刻と高まっている。

EUのGDPが一挙に18%減少へ

 BREXITはEUと英国の双方にとって打撃だ。BREXITによってEUの人口は約6624万人減り、GDP(域内総生産)も約2兆3320億ユーロ(約290兆円)減少する。英国のGDPは、28の加盟国の中で、ドイツに次いで2番目に大きい。EUのGDPは一挙に約18%、人口は約13%減る。

 ドイツの経済学者ハンス・ヴェルナー・ズィン教授は、「英国のGDPは、EUでGDPが最も小さい20カ国の合計に相当する。つまりBREXITはEUの小国20カ国が一度に離脱したのと同じインパクト(衝撃)を持つ」と述べている。

ハードBREXITはGDPの8%をはぎ取る

 一方BREXITが英国に与える経済的な影響も甚大だ。英国の中央銀行であるイングランド銀行(BOE)は2018年11月に公表した報告書の中で、BREXITの最悪のシナリオについてシミュレーションした。

 BOEが想定した最悪のシナリオとは、英国がBREXIT後、それまでEUとの間で締結していた全ての通商協定を失い、2023年までにEUと新たな通商協定を結ぶことに失敗し、英国の国境で関税検査が導入され物流が停滞し混乱する「無秩序(disorderly)な」ケースである。

 BOEは「最悪のシナリオによると、BREXITは英国のGDPを2019年第1四半期に比べて8%減らし、個人世帯向け不動産価格を30%、商業向け不動産価格を40%下落させる」と予測する。

 その理由は、EUとの間に関税障壁が導入されるので英国の輸出額が激減することだ。関税障壁が生じるのはEUとの間だけではない。メキシコや韓国とEUが結んでいる通商協定も英国に適用されなくなるので、こうした第三国との貿易も阻害される。

 関税は、EUから輸入する産品の価格を引き上げるほか、ポンドの為替レートの悪化も輸入品を割高にする。2018年12月中旬における英国の物価上昇率は2.3%。無秩序なBREXITとなれば、この値が6.5%まで上がる可能性があるとBOEは見ている。国民の実質購買力も低下する。まさに負の効果がさらに負の効果を生む、悪循環である。

 失業率についてもBOEは「無秩序なBREXITは失業率を7.5%に引き上げる」と予測する。2018年第3四半期の値は4.1%だった。

 BOEが予想するGDPの減少率(8%)は、リーマンショックが引き金となって起きた世界同時不況の際の減少率(6.25%)(2008~10年)を上回る。つまり同行は、無秩序なBREXITが第二次世界大戦以降で最悪の不況を英国にもたらすと警告しているのだ。