英議会前で「合意なき離脱? 問題ない」とのボードを抱げる離脱賛成派(写真:ロイター/アフロ)
英議会前で「合意なき離脱? 問題ない」とのボードを抱げる離脱賛成派(写真:ロイター/アフロ)

 1月15日夜(日本時間16日未明)、英国議会下院は、テリーザ・メイ首相が推すEU離脱(BREXIT)案を圧倒的多数で否決した。432人の議員が反対したのに対し、賛成した議員は202人にすぎなかった。政府の大敗により、英国が3月29日、EU(欧州連合)との新たな通商条件などについて合意のないままBREXITに突入する可能性が一段と高まった。

230票の大差で歴史的敗北

 メイ首相は採決前に「この案が英国にとって最善だ。これが否決されたらEUを離脱できないかもしれない」と議員たちに訴えたが、彼らは聞く耳を持たなかった。

 今回のEU離脱案が否決されることは予想されていたが、230票もの大差がついたことは想定外であり、メイ首相にとって痛打である。政府の提案がこれほどの大差で否決されたことは、英国の歴史において一度もない。この敗北はメイ首相の指導力を大幅に低下させ、英国政界の混乱に拍車をかける。野党・労働党のジェレミー・コービン党首は、採決後直ちに内閣不信任案を提出した。

 メイ首相は1月21日までに代替案を議会に提出することを求められる。だが、その案が下院の承認を得られるかどうかは疑問だ。仮にメイ氏が首相の座を去っても、後継者が3月29日までに新しい案をまとめ上げてEUと合意できる保証はない。

否決の最大の原因は北アイルランド問題

 野党だけではなく与党・保守党内でもメイ首相の提案に反対する意見が強かった。その最大の理由は、メイ首相の合意案に含まれている北アイルランドに関する「バックストップ(暫定解決措置)」である。

 EU加盟国アイルランドの北東に位置する北アイルランド地区は英国の領土だ。英国とアイルランドは現在ともにEU加盟国なので、アイルランドと北アイルランド地区の間で税関検査は行われていない。

 だがBREXIT後は、英国にとって北アイルランドとの国境がEUとの「国境」になる。本来、国境では、税関検査が行われるのが筋だ。

 だがEUとアイルランドは、BREXIT後にアイルランドと北アイルランド地区の間で税関検査が行われることに強く反対してきた。今のところEUと英国は北アイルランド問題について解決策を見出していない。

 そこでEUとメイ首相は、一種の安全ネットとしてバックストップを考え出した。つまり英国とEUが2019年3月29日から2020年12月末までの移行期間中に、アイルランドと北アイルランド地区の間の国境をどう扱うかについて合意できなかった場合には、2021年以降も英国(北アイルランドを含む)はEUの関税同盟に残留する(北アイルランドはEUの共通市場に残る)。つまり、アイルランドとの国境問題に決着がつかない限り、英国はEUとの関税同盟から抜け出すことができない。

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