全4371文字
台湾総統選では、「一国二制度の台湾版」を話し合うよう呼びかけた中国の姿勢が大きく影響した(写真:AP/アフロ)

 台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統は、1月11日の総統選挙で約817万票(得票率57.1%)を獲得し、中国国民党(国民党)の韓国瑜(ハン・グオユー)候補(約552万票、38.6%)を約264万票の差で退けた。得票数は、これまでの総統選挙で最高であり、1期目に得た票に約128万票も積み増して圧勝した。立法委員選挙も与党・民主進歩党(民進党)から61人が当選して過半数を獲得し(定数113、国民党は38議席を獲得)、まさに完全勝利である。19年11月の香港区議選と印象が重なる。

 実はこれは奇跡的な逆転大勝利である。18年11月に行われた台湾の統一地方選挙で、蔡英文政権は総統選での再選が不可能と思えるほどの大敗北を喫していたからである。痛みを伴う改革を強行したことで支持率は20%台まで落ち込んでいた。民進党内部では、頼清徳前行政院長が党内予備選で蔡英文に挑戦するなど分裂含みだったが、結局、蔡英文が公認を獲得し、尻上がりで国民党を逆転したのである。

習近平と林鄭月娥のオウンゴール

 たった14カ月でこの大逆転が起きた原因は何か。

 まずは、中国、香港、米国など外部環境の変化である。習近平(シー・ジンピン)政権は19年1月に台湾に対して「一国二制度の台湾版」を話し合うことを呼びかけた。さらに、一国二制度が実施されている香港で、逃亡犯条例の制定に対して、民主派を主とする広範な香港住民の反対運動が起き、6月以降、取り締まりと反対運動がともに暴力的なものとなり、泥沼に陥った。習近平の呼びかけと林鄭月娥・香港特別行政区行政長官の拙劣な対応は、台湾で反発と危機感を生んだだけだった。

 蔡英文政権は、習近平の呼びかけた一国二制度をきっぱりと拒絶し、香港の反対運動に同情と支援姿勢を示した。この2つのタイミングで蔡英文の支持率は反転上昇した。さらに蔡英文政権は国家安全保障関連の法制度を整備して、中国が台湾への浸透工作を進められないように手を打った。一方で、中国との関係を改善し金もうけをしようという主張を掲げていた国民党は、中国に対して煮え切らない態度に終始した。誰が台湾を守ってくれるのかという印象において、両者の違いは明確であった。

 貿易戦争が象徴する米中対立も蔡英文政権に有利に働いた。国民党は、中台関係が悪化したのは、蔡英文が「一つの中国」に関わる中台間のコンセンサスを認めないせいだとして批判した。ところが米国は台湾より中国の方がトラブルメーカーであると判断していて、戦闘機F-16などの大型武器輸出や台湾支援立法などを繰り出し、中国との対立を深める蔡英文政権をおおっぴらに支援した。

 逆に国民党は中国に接近しすぎていると判断され、米国の信頼を失った。有権者は米国の重要性をよく理解しており、米国の信頼を失った指導者を選ぶことに躊躇(ちゅうちょ)する。この点は、韓国や日本と似ている。かつて民進党の陳水扁政権(2000~08年)が台湾独立路線をとってブッシュ政権から嫌われたことがあったが、今回、国民党と民進党の立ち位置は見事にひっくり返った。