トランプ政権は、支持者による議事堂占拠で幕を下ろすことになりそうだ(写真:AP/アフロ)
トランプ政権は、支持者による議事堂占拠で幕を下ろすことになりそうだ(写真:AP/アフロ)

 新年早々、恐れていた事件が米国で起きた。過激陰謀論を信奉するトランプ主義者の群衆がワシントンの議会議事堂を襲撃し、混乱の中で警備・群衆双方に多くの死傷者が出たのだ。米テレビ局CNNは勝ち誇ったように、今回の事件を「暴動」「クーデター」「テロ」と断じた。米憲法修正25条の発動*、議会による2度目の大統領弾劾、暴動扇動罪の適用などでトランプ大統領を辞任に追い込もうとする民主党の動きを連日報じている。

*:同憲法修正25条の第4節は「副大統領および行政各部の長官の過半数または連邦議会が法律で定める他の機関の長の過半数が、上院の臨時議長および下院議長に対し、大統領がその職務上の権限と義務を遂行することができないという文書による申し立てを送付するときには、副大統領は直ちに大統領代理として、大統領職の権限と義務を遂行する」と定めている

 これに対し、FOXニュースは「事件は暴動ではなく抗議行動」などと平静を装っているが、今回ばかりは共和党連邦議員の中にもトランプ大統領を批判する声が少なくない。多くの米国人は2021年1月6日を米国史の汚点として長く記憶することだろう。日本にも熱烈なトランプ信奉者が少なくないはずだ。彼らは今回の議事堂内外の記録ビデオを見て、この「トランプ現象」をいかに正当化するのだろうか。

 日本の「トランプ主義者」も事件の異様さや米国民に与えた衝撃の大きさは理解できるだろう。誤解を恐れずに言えば、それは、①日本で世論を二分する総選挙が行われ、②敗北候補者を信奉する極右武装集団が、③腐敗政治家と高級官僚からなる「影の政府の日本支配」なる陰謀論を信じ、④次期首相を決める指名選挙開催中の国会議事堂に、⑤暴力をもって乱入し多数の死傷者を出す、といった異常事態に近いからだ。

トランプ内政:「ダークサイド」の覚醒

 議事堂に侵入したのは「極右集団『プラウドボーイズ』幹部や陰謀論集団『Qアノン』の説を説く有力者、ネオナチ集団のメンバー」だったと米ニューヨーク・タイムズは報じた。ネット上で流れた各種映像を見る限り、襲撃者の大半は破壊や暴力をいとわない白人過激主義者、筆者が以前から「ダークサイド」と呼ぶ集団の中でも最も過激な連中のようだ。つくづく「ついに来るものが来たな」と感じた。

 他方、こうした過激主義者の行動が「トランプ現象」の本質だと報じる一部米国メディアの論調には違和感がある。確かに「ダークサイド」には過激分子が少なくないが、彼らは決して多数派ではない。トランプ大統領の頼りは、「『プラウドボーイズ』にはついていけないが、ワシントンには強い不信感を持つ」穏健な保守層の票だ。トランプ政権の内政は、民主党の「少数派尊重」主義に対し、必ずしも過激ではないが、ごく凡庸な「非エリート白人層」の不満と怒りを覚醒させ続けることで、支持率の維持に成功してきたと言える。

 筆者は5年前に「トランプ現象」と「ダークサイド」の関係についてこう書いた。 

●トランプは米内政混乱の原因ではなく、結果である
 トランプ旋風は米共和党内だけの現象ではない。理由は、彼がアメリカ社会の「ダークサイド」を代弁する政治家だからだ。彼を支持するのは米国の非エリート層、極論すれば、白人、男性、低学歴、ブルーカラーの落ちこぼれ(編集部注:原文のまま)組だ。トランプ現象の原因は彼らの現状(とワシントン)に対する怒りと不信であり、社会の「影」の部分に溜まるマグマが噴出し始めた結果に過ぎない。

 過去数十年間に米国の富が一部富裕層に集中する一方、彼らの生活水準は低下した。更に、近年は彼らに代わってアフリカ、ヒスパニック、アジア系少数派米国人が台頭した。これに不満を持つ彼らは、既得権益を新参移民に脅かされると信じ、人種差別的で排外主義的な暴言にもかかわらず、トランプ候補を支持する。これら不満層は米国有権者の約二割を占めているので、トランプ運動は失速しない…。

出所:2017年3月の週刊新潮コラム

 このように「ダークサイド」は米国社会に内在する根の深い問題だ。されば、今回議事堂を襲撃占拠したQアノンなど過激集団が仮に一網打尽にされても、「ダークサイド」自体は残るだろう。

続きを読む 2/3 自己愛性パーソナリティー障害のようなトランプ外交

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