日米2プラス2会合が持つ戦略的意味とは
日米2プラス2会合の開催は2021年3月以来10カ月ぶり。共同声明の内容を見る限り、中国を念頭に置いた日米同盟の抑止力は順調に強化されそうだ。20数年前、この種の文書を担当課長として取りまとめた経験を持つ筆者には、実に隔世の感がある。今回の2プラス2会合の成果は、初めて「台湾海峡」に言及した昨年3月の会合以上に、より具体的内容を含むものだろう。
林芳正外務大臣は「変化する地域の戦略環境に関する認識を、丁寧にすり合わせるための突っ込んだ議論を行うことができた」「特に、ルールに基づく秩序を損なう中国の取組が、様々な課題を提起していることへの懸念を共有し、日米が地域における安定を損なう行動を共に抑止し、必要であれば対処することを決意した」と述べている。
同外相はさらに「日米同盟の抑止力・対処力の抜本的強化に向けて、具体的な議論を進めることを確認」し、「日本としても、国家安全保障戦略の改定等を通じて、自身の防衛力の抜本的強化を行う」と述べている。抽象的かつ官僚的言い方ではあるが、日米、特に日本側の「本気さ」が行間から読み取れる。ロシアから見れば、これは「米中覇権争いが当面続く」という新しい地政学的現実を意味する。
カザフスタン騒乱は西側による意趣返し?
こうしたプーチン大統領の戦略観の中で「カザフスタンでの反政府デモ」は予想外だったのではないか。カザフスタンは旧ソビエト連邦の中で最も資源の豊富な共和国の1つであり、対中関係では有力な「緩衝国家」だ。さらに、内政的にも、旧ソ連における「独裁体制の円滑な継承」の数少ない実験場として、特にベラルーシやロシアにとって重要な国家である。
このカザフスタンで新年早々、しかも、ロシアが対NATO強硬姿勢を取り始めた直後に、大きな騒乱が発生した。プーチン大統領は決してこれを「偶然」とは考えないだろう。この事件を新たなNATO政策に対する西側の意趣返しと捉えるロシアは、いかなるコストを払ってでも、カザフスタンの現政権を維持するはずだ。これはロシアにとって、対米関係だけでなく対中関係においても、決して譲歩できない一線である。
「大祖国戦争」を再開するプーチン大統領
ロシアでは、帝政ロシアが1812年に戦った対ナポレオン戦争を「祖国戦争」、ソ連(当時)がナチス・ドイツなどと1941年6月~1945年5月に戦った戦争を「大祖国戦争」と呼ぶそうだ。80年前にドイツ軍と共にソ連に侵攻したのは、ルーマニア、フィンランド、ハンガリー、スロバキア、クロアチア、イタリア、スペイン各軍とフランスの義勇軍団だった。 これらの国名が並ぶのは決して偶然ではない。今、プーチン大統領が感じているNATO東方拡大への反応は80年前と基本的に同じはずだ。
米中覇権争いが激化する中、ロシアには約25年ぶりで危機と好機が訪れている。
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