タクソノミー記載賛成派が優勢
ただし、原子力発電批判派がEU提案を阻止できる可能性は低い。昨年12月末の時点で、フランスなど12カ国が、原子力発電をタクソノミーに記載することに賛成していた。フランスは電力の約70%を原子力に依存している。
これに対し、反対しているのはドイツなど5カ国にすぎない。ドイツがEUの提案を表決で阻止するには、27の加盟国のうち20カ国を結集させる必要がある。そのためにはEUの人口の65%に相当する数の賛成票を得なければならない。これが実現する可能性はゼロに近い。
原子力発電のタクソノミー記載に賛成している国
- (1)フランス
- (2)オランダ
- (3)スウェーデン
- (4)ブルガリア
- (5)クロアチア
- (6)チェコ
- (7)フィンランド
- (8)ハンガリー
- (9)ポーランド
- (10)ルーマニア
- (11)スロバキア
- (12)スロベニア
原子力発電のタクソノミー記載に反対している国
- (1)ドイツ
- (2)オーストリア
- (3)ルクセンブルク
- (4)デンマーク
- (5)ポルトガル
実はこの問題をめぐって、ドイツのショルツ政権内部でも温度差がある。オラフ・ショルツ首相(SPD)は「原子力発電のタクソノミー記載は技術的な細部に関するテーマであり、重要な問題ではない」と発言したことがある。実際、ショルツ首相と、同じく連立政権に参加する自由民主党(FDP)のクリスティアン・リントナー党首(財務大臣)はタクソノミー記載に猛反対する発言はしていない。この点において、緑の党のハベック氏とは異なる。
もちろんショルツ首相もリントナー財務相もドイツが脱原子力を完遂することに賛成している。しかし彼らは、EUが原子力発電だけではなく、天然ガスによる火力発電もタクソノミーに記載すると提案したことを評価している。
ショルツ政権の連立契約書には、再生可能エネルギーの拡大だけではなく「電力の安定供給を確保し価格の高騰を防ぐために、天然ガス火力発電所を新設する」と明記しているからだ。この公約は、ドイツの製造業界の意向を受けたFDPの要請で連立契約書に加えられた。
ただし化石燃料に否定的な緑の党の要請で「新設される天然ガス火力発電所は、後に、グリーン水素に燃料を切り替えること」という条件がつけられている。これは、EUが天然ガス火力発電所のタクソノミー記載をめぐって提示した条件に一致する。
つまりEUは、ショルツ政権が新設を目指す天然ガス火力発電所への投資を「グリーン投資」と認める代わりに、ドイツ人にとって「苦い薬」である原子力のタクソノミー記載を受け入れさせようとしているのだ。一種の交換条件である。
この記事は会員登録で続きをご覧いただけます
残り1266文字 / 全文6768文字
-
有料会員(月額プラン)は初月無料!
今すぐ会員登録(無料・有料) -
会員の方はこちら
ログイン
日経ビジネス電子版有料会員になると…
特集、人気コラムなどすべてのコンテンツが読み放題
ウェビナー【日経ビジネスLIVE】にも参加し放題
日経ビジネス最新号、10年分のバックナンバーが読み放題
この記事はシリーズ「世界展望~プロの目」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
Powered by リゾーム?