専門家委員会は原子力発電をリスト草案から外していた

 タクソノミーをめぐる議論の中で「原子力発電をグリーン事業と見なすべきか否か」は、専門家や加盟国政府の間で最も激しく意見が分かれたテーマだった。万一、原子力発電で過酷事故が起きた場合、深刻な環境汚染が起きる。そうでなくても原子炉は高レベル放射性廃棄物を生み出すからだ。

 このため、EUの「持続可能性のある金融に関する技術専門家委員会(TEG)」が2020年3月に公表したタクソノミー・ツールと呼ばれる分類表の草案の中には、原子力発電は含まれていなかった。

 タクソノミーに含まれる事業は次の6つの環境保護目標の少なくとも1つに貢献しなくてはならない。

  • (1)気候変動の軽減
  • (2)気候変動への適応
  • (3)水と海洋資源の保護
  • (4)循環型経済の実現
  • (5)環境汚染防止
  • (6)生態系の保護

 ただしタクソノミーには「このリストに記載される事業は、他の5つの目標の達成を妨げてはならない」という規則がある。この規則は、DNSH(Do No Significant Harm)ルールと呼ばれる。

 TEGは「原子力発電はCO2を排出しないので、気候変動の軽減に資する。しかし放射性廃棄物を生むために、環境汚染防止という目標に矛盾する」と考えて、2020年3月のタクソノミー・ツールから原子力発電を除外した。当時、環境保護団体はこの措置を歓迎した。しかし今回、EUはTEGの提案を変更し、原子力発電をタクソノミーに加えることにした。

 EUの提案の背景には、2021年に欧州でエネルギー危機が深刻化したことがある。ガス、石油、電力などの価格が高騰した。欧州が輸入する石炭の1トンあたりの価格は、2020年9月2日の43.46ユーロから、2021年9月30日の185.98ユーロに上昇した。2020年5月には17.6ユーロだった電力1メガワット時あたりの卸売価格は、2021年9月には一時128.34ユーロに達した。

 エネルギー価格高騰の原因は、アジアを中心に多くの国が新型コロナウイルス感染症のまん延による経済停滞から回復し、需要が急増したことにある。加えて、欧州における風力の発電量が2021年前半、前年同時期に比べて少なかったことが響いた。欧州に吹く風が弱かったことが原因だ。

 欧州では2021年の夏以来、電力卸売価格高騰のために中小の電力販売会社が倒産したり、供給を突然停止したりするケースが増えている。欧州諸国の政府の間で「化石燃料と再生可能エネルギー以外のエネルギー源も確保する必要がある」との意見が強まった。

欧州で進む原子力ルネサンス

 このため欧州では今、「原子力ルネサンス」とも呼ぶべき傾向が強まっている。フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、2017年に就任した直後は、原子力発電の比率を再生可能エネルギーの拡大によって減らすことを目指していた。だが、2021年に化石燃料の価格が高騰して以来、態度を大きく変えた。

 マクロン大統領は昨年11月、小型原子炉の新設計画を発表するなど、原子力を地球温暖化対策の1つとして重視する姿勢を打ち出した。またポーランドやオランダが原子炉を新設する方針を打ち出している。チェコも原子炉を建設し、発電量に原子力が占める比率を現在の34%から2040年には40%に引き上げる予定だ。スウェーデンとフィンランドも原子力を再生可能エネルギーに並ぶ脱炭素化の柱と位置付ける。

 EUを離脱した英国も、2030年までに2基の原子炉を建設する他、10基を超える小型原子炉の新設を計画中だ。

 欧州委のウルズラ・フォンデアライエン委員長は「2050年にカーボンニュートラルを達成するのに原子力は不可欠だ」と発言している。つまり欧州では、電力価格の高騰を避けながら、化石燃料の使用量を減らして経済のグリーン化を達成する上で、原子力を重視する国が増えているのだ。

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