ソレイマニ司令官というのは、どういう人物なのですか。同氏の葬儀に100万人もの人が集まりました。信じられない数です。
菅原:1979年にイラン革命が成就して以降に起きた、およそすべての戦争に参加し、数々の戦績を残したきた「国家の英雄」です。
例えば、ISが2014年に台頭して、イラクの首都バグダッドを目指した時、ソレイマニ氏がいなければこれをとどめることはできなかったと言われています。イランの正規軍が総崩れとなる中、同氏とコッズ部隊がイラクのシーア派民兵組織を育成し、ともに戦いました。
対IS戦でイランは、レバノンのヒズボラ、イラクやアフガニスタンのシーア派民兵を組織、多国籍民兵部隊を指揮してアサド政権を支援。シリア内戦においてアサド政府軍が勝利した主要な戦闘の多くで、ソレイマニ氏が率いる民兵部隊が決定的な役割を果たしたと言われています。さらに、15年9月、シリアの内戦にロシアを引き込んだのも、ソレイマニ氏の仕事でした。アサド政府軍が反政府勢力に押されて苦戦するなか、ロシアの力を得て、戦況を逆転させました。
コッズ部隊というのは、様々な機能を担っています。米CIA(中央情報局)の工作部隊のような仕事もすれば、特殊部隊である「統合特殊作戦コマンド(JSOC)」のような仕事もします。JSOCは、ISの指導者バグダディを襲ったことで知られています。よって、ソレイマニ司令官はCIA長官とJSOCのトップを一人でやっているような存在なのです。
ソレイマニ司令官の殺害は、イランにとって宣戦布告に等しい許しがたい行為と言えます。
イランと北朝鮮が同時に核の脅威を高める?!
第3は核保有について。トランプ大統領は1月8日の演説で「私が米国の大統領である限り、イランが核兵器保有を許されることは決してない」と強調しました。核保有を許してしまったら、これまで何のためにイランと対立してきたのか分からなくなってしまいます。
以上の3つのメッセージからイランと北朝鮮はどのようなことを考えるでしょう。
菅原:トランプ大統領が絶対に戦争したくないタイミングで、あえてレッドラインを越える――という試みをするかもしれません。 先ほどお話ししたように、トランプ大統領にとって現状は心地よい状態です。しかし、制裁下にあるイランと北朝鮮は、今のままでいるわけにはいきません。
「戦争したくなければ、制裁の緩和・解除せよ」と譲歩を迫るためです。 同様に核保有も譲歩を迫る材料になるでしょう。戦争も核保有も、トランプ大統領が望んでいないことが明確になったわけですから、これをてこに制裁の解除・緩和を図る。
例えば、イランは1月5日、ウランの濃縮制限をはずす方針を明らかにしました。もしイランが20%のウラン濃縮を進め、その成果物がたまってくると、米国としても何らかの手を打つ必要が生じる。しかし、本格的な戦争はしたくない。結果として、戦争以外の手段、すなわち外交的な譲歩に応じざるを得なくなる。こうした状況に米国を追い込む筋書きを、イランは考えるかもしれないわけです。
北朝鮮も当然、同様のことを考えるでしょう。イランと北朝鮮が軌を一にして、戦争や核をてこにした制裁の緩和・解除を求めてきたら、トランプ大統領にとっては嫌でしょうね。両国が連携して、「せーの」でやることだってなくはないでしょう。これが米国にとって最も嫌な、その一方で「あり得る」シナリオです。
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