
米国とイランの対立が年明けから突然激化しました。1月3日に米国が、イラン革命防衛隊の精鋭組織「コッズ部隊」のカセム・ソレイマニ司令官を殺害。これに対しイランが同8日、イラク国内の米軍基地を弾道ミサイルで攻撃し、報復しました。米軍がこれに軍事力で対抗するのか――に世界中が注目する中、ドナルド・トランプ米大統領は同8日、「武力は使いたくない」と発言し、軍事攻撃で応じる意図はないことを示しました。事態の突然さと展開の速さに驚きました。

菅原:米国とイランの対立が軍事力を伴う事態にまで発展する可能性があることは実は以前から見えていました。エポックメーキングとなったのは、①トランプ大統領の就任、②米国によるイラン核合意からの離脱、③イラン産原油に対する全面的な禁輸措置、④イランによる攻撃で米軍通訳が死亡、米軍兵士が負傷、です。
①について。トランプ大統領が就任後、初の外遊先に選んだのはサウジアラビアとイスラエルでした。同大統領が中東に焦点を当てていたことが分かります。そして、前任であるバラク・オバマ大統領が残した業績を逆回転させ始めました。
最初に実行したのは、2017年1月のTPP(環太平洋経済連携協定)からの離脱でしたね。
菅原:はい。そして同年10月には対イラン戦略を発表。翌18年の5月にはイラン核合意から離脱し、イランに対して「最高レベルの経済制裁を課す」と宣言。実際、同年8月から厳しい経済制裁を復活させました。オバマ大統領はイランと核合意を結び関係を改善する一方、その余波として、伝統的に良い関係にあったサウジアラビアとイスラエルとの関係を悪化させていた。これを逆回ししたわけです。
これに対してイランは「戦略的忍耐」を選択しました。イラン核合意から勝手に離脱したのは米国です。このためイランに同情的だった欧州、ロシア、中国を味方につけ、米国を孤立させるとともに、米国を合意に引き戻す道を進み始めました。
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