長期化する対朝制裁に「自力更生」で対抗

 党中央委員会第7期第5次総会で、核実験とICBM発射実験のモラトリアムをやめることは、以前から分かっていた。だから党中央委員会第7期第5次総会の注目点は、米朝関係ではなく、対朝制裁への対処であった。

 そもそも同総会は、金正恩が「社会主義建設をさらに促進するための決定的対策を講じるという趣旨」で開催したと語っているように、発展のための政策を講じることに主眼を置いている。核実験とICBM発射実験のモラトリアムをやめることに主眼が置かれていたのではない。

 発展のために具体的に何をすることになったのか、北朝鮮の報道からは明らかではない。金正恩は、「現在の情勢と発展する革命の要求に即して正面突破戦を展開するという革命的路線を示」し、正面突破戦の「基本戦線は経済部門である」と語ったので、経済政策を意味することは分かる。

 「アメリカとの長期的対立を予告する現在の情勢は、我々が今後も敵対勢力の制裁の下で生きていかなければならないことを既定事実化し、各方面で内部の力をさらに強化することを切実に求めています」と金正恩が語るように、朝鮮労働党は制裁解除に期待しないことを覚悟したようである。

 その制裁に対処する政策は、「自力更生」だ。金正恩は「世紀を超えて続く朝米対決は、今日に至って自力更生と制裁との対決に圧縮され、明白な対決の構図を描いています」と語った。制裁をかける米国に対して「自力更生」で対処する北朝鮮というのが朝鮮労働党の構想なのであろう。

 「自力更生」は、以前からスローガンとして掲げられており目新しくはない。国家レベルでの自給自足と考えればよい。貿易を否定するものではないが、できる限り国内での生産によって需要を満たすというものである。ただ、今までうまくいっていたわけではない。金正恩は党中央委員会第7期第5次総会で幹部たちに多くの叱責をし、改善策を求めた。ただし、具体的な内容も分からないし、それがうまくいくのかも分からないのが現状である。

そもそも「非核化」する気があったのか?

 さて、北朝鮮はもともと「非核化」する気はなかったという評価がある。こうした評価はたいていが「後付け論」。なんとでも言えるものだ。

 19年1月1日の「新年辞」で金正恩が語ったように、「非核化」する考えはあった。ただし、筆者が「物別れの米朝会談、溝が埋まらなかったウラン濃縮施設」で論じたように、重要なのは「非核化」が何を意味するかだ。要は米国が考えている「非核化」と北朝鮮で考えている「非核化」が異なるのだ。この「非核化」に対する期待の違いが、この約2年間の米朝会談を始めさせ、また終わらせたと言ってよい。

 米朝首脳が18年3月に首脳会談を開く意思を表示したのに始まった一連の米朝会談はこれでいったん終わることになる。米朝関係は17年以前の状態に戻る。いずれ、米朝会談が再び始まることもあろうが、それは今回の米朝会談とは異なる目的で行われるかもしれない。もちろん「非核化」は今回以上に難しくなることが予想される。

「米帝」から「米国」に認識を改めた

 ただ、17年の状態に完全に戻るわけではない。今回の米朝会談がもたらした変化もあった。その一つとして、北朝鮮の米国観が変わったことが挙げられる。

 まず、米朝会談の中盤ぐらいまで、北朝鮮では、米国は大統領さえ承認すれば全て解決すると考えていた節がある。しかし、ハノイでの第2回米朝首脳会談の後、米大統領と米国を分離して論じるようになった。米国では米大統領が全能であるという妄想を捨てたのである。

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