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ソレイマニ司令官の死を悼んで行進するイランの市民(写真:AFP/アフロ)

 謹賀新年、本年もよろしくお願い申し上げる。今年は正月早々、中東で大事件が起きた。本来なら「2020年に何が起きないか」でも書くところだが、今回は、米軍無人機が1月3日、バグダッド国際空港近くでイラン革命防衛隊コッズ部隊のカセム・ソレイマニ司令官らを殺害した事件を取り上げたい。

 本邦有力紙の初動は鈍かった。「米軍、イラン革命防衛隊幹部を空爆で殺害」なる見出しに緊迫感はなく、「コッズ」部隊なる語もプロではない。正確には「クドゥス(アラビア語でエルサレム)」だろう。それはともかく、本事件第一報に接して感じた衝撃と懸念を筆者は忘れない。一つ間違えば、大戦争にもなりかねないからだ。外務省中東屋としてソレイマニ殺害の重大さはよく分かる。

 米国の反トランプ派は「この暗殺で米イラン関係が戦争状態になった」とドナルド・トランプ米大統領の判断を批判するが、果たしてそうだろうか。両者が相互に誤算したことだけは間違いない。米国は、ソレイマニ殺害で革命防衛隊を抑止できると考えた。他方、イランは、これまで米国を挑発してきたが、米国がソレイマニ殺害などの本格的軍事行動には踏み切れない、と思っていたのだろう。いずれも間違いだった。以下は筆者の見立てである。

米イラン両国が政治戦争にとどめる意向であったとしても…

・これは、新たな戦争であろうか

 否。米国とイランは過去40年の間、緊張関係にある。特に2003年にイラク戦争が起きて以降、イラク、シリアだけでなくイエメン、パレスチナなど中東各地で両国間の代理戦争が続いている。トランプ大統領は「戦争を止めるための攻撃」と居直るが、今回の行為は過去17年続いてきた戦争を「代理」レベルから「直接」戦闘に引き上げただけだ。両国間の軍事的現実は不変である。

・司令官殺害で何が変わるのか

 あまり変わらない。ソレイマニ司令官は一種の軍事的天才でイラン最高指導者にも近い。誰が司令官になっても、これまでのようなクドゥス部隊の戦闘力は期待できない。だが、ソレイマニ司令官の遺産は当面続く。同部隊を過小評価することだけはやめた方がよいだろう。

・攻撃は合法か

 トランプ政権は「切迫した脅威」を挙げ正当化している。されば、まず国家安全保障会議を開き海外米国人に知らせるのが筋だろう。報道によれば、同攻撃は偶然可能になったものという。ならば今回も、大統領選挙をも視野に入れたトランプ大統領お得意の「勢い、偶然、判断ミス」による“思いつき攻撃”だったのではないのか(関連記事「GSOMIA終了が暗示する『不確実性の時代』」)。