ロシアとドイツを結ぶガスパイプライン「ノルドストリーム1」の関連施設(写真:AFP/アフロ)
ロシアとドイツを結ぶガスパイプライン「ノルドストリーム1」の関連施設(写真:AFP/アフロ)

ドイツ政府と同産業界は、ロシアのガス供給停止がもたらす冬の需給逼迫を懸念していた。だが、大みそかの気温がセ氏20度と過去最高に達する異常な暖冬で、ガス消費量が減少。地球温暖化ゆえにガス不足を回避できる可能性が高まっている。

 ドイツ政府と産業界の関係者が、毎日チェックするウェブサイトがある。独連邦ネットワーク庁(BNetzA) が、ガスの需給に関するデータを収集、提供するデータバンクだ。供給量、輸入量、需要量、備蓄量、気温などを網羅している。BNetzAはこの国の電力やガスの安定供給を維持すべく、企業や市場を監視・監督する官庁である。

 データバンクの中で最も重要なのが、ドイツにあるガス貯蔵設備の充填率だ。2022年11月5日の充填率は100%だった。その後、暖房のための消費量が増えたため充填率は低下し始め、寒さが厳しくなった12月20日には87.2%まで下がった。ところが、その後、充填率を示すカーブは上昇し始め、大みそかには90.1%に達した。

 貯蔵設備の充填率は通常、冬に低下する。多くの市民がガス暖房を使うので、ガス消費量が増えるからだ。ドイツの家庭のほぼ半分が、ガス暖房を使っている。つまり冬に充填率が上昇するのは異例の事態と言える。しかもロシアが8月31日以降は、海底パイプライン「ノルドストリーム1(NS1)」を通じたガスの供給を停止しているさなかのこと。なぜこのような予想外の事態が起きたのか。

12月として記録的な暖冬

 最大の理由は、歴史的な暖冬である。12月の最後の週に突然、気温が上がり始めた。ドイツ気象台によると、大みそかの最高気温は20度に達し、春のような暖かさになった。通常なら4~5月の気候である。大みそかの気温として、ドイツが19世紀に気象観測を始めて以来最も高い温度だった。

 筆者が住むミュンヘンは海抜500メートル。アルプス山脈に近く、ドイツで最も寒い地域の1つだ。それでも、12月の最終週には、積もった雪が完全に解けた。春になったと勘違いした野鳥がさえずり始め、タンポポなどが咲き始めた。アルプス山脈のスキー場では人工雪も解けてしまうほどの暖かさで、ホテル経営者たちはスキー客の減少に頭を悩ませている。しかもこのような天気が、約2週間続いている。

 日向では汗ばむほどで、Tシャツに短パンでジョギングをしている市民もいる。夜間や早朝に窓を開けると、今年23年は生暖かい空気が入ってくる。通常なら、冷たい空気が入ってくるところだ。このため、暖房を使う必要がない。

 つまり記録的な暖冬のため、市民のガス消費量が減り、充填率の回復につながった。

 もう1つの理由は、産業界と市民がガス消費の節約に努めたからだ。BNetzAによると、22年2~12月のドイツのガス消費量は、その前の4年間(18~21年)の平均に比べて約12%少なかった。特に、化学、鉄鋼など大口需要家である製造大手の11月のガス消費量は、その前の4年間(18~21年)の平均に比べて約27%も少なかった。これは能動的な節約だけではなく、ガス価格高騰の影響で生産を縮小したり一時停止したりする企業が多かったことが影響している。

 市民もガス暖房の使用を控えたり、室温を下げたりして協力した。10月の家庭と中小企業のガス消費量は、その前の4年間(18~21年)の平均に比べて42.4%、11月の消費量は27.3%少なかった。

 さらに、ノルウェー、オランダ、ベルギーなどが、パイプライン経由でドイツに着実にガスを送り続けたことも、充填率の大幅な低下を防いだ。

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