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社内の隠蔽は約50年にも及ぶ?

 ベビーパウダーの主原料は、滑石と呼ばれる鉱石の粉だ。一方のアスベストは非常に微細な繊維状の鉱石で、人の体内に入ると針のように細胞を刺し、傷つけることで知られている。

 番組が取り上げたJ&Jの社内文書によると、同社の幹部は69年の段階で既にアスベストが材料に含まれている可能性について知っていたという。「アスベストが混入しないように品質検査の質を上げるべきだ」との記述が文書にあった。また73年の文書には、「繊維質が含まれていないコーンスターチに材料を変えることも検討すべきだ」との指摘もあった。

 アスベストが混入しているか否かを確認するため、同社が前出の教授に調査を依頼したとみられるが、結局、調査結果が表に出ることはなかった。同社がその教授の信ぴょう性を疑い、結果そのものを根拠のないものと結論づけたからだ。

 これが本当だとすると、同社は50年近くにもわたって事実を知りながら隠蔽してきたことになる。裁判でもこの点が争点の一つになっており、同社がかたくなに否定し続けているポイントでもある。

守るべきは利益か顧客か

 ここで頭をもたげるのが「J&Jの経営は大丈夫なのか?」という疑念だ。同社が19年10月15日に発表した同年7~9月期決算では、売上高が前年同期比1.9%増の207億円、1株当たり利益は同25.7%増の1.81ドルと増収増益だった。数々の訴訟にもかかわらず、通期の1株当たり利益の見通しを8.53~8.63ドルから8.62~8.67ドルに上方修正し、強気の姿勢を貫いていた。

 だが、今回の回収で風向きが変わる可能性がある。同社のベビー関連製品の売り上げ規模は、消費者向け事業の約12%(同四半期実績)とそれほど大きくない。だが、ベビーパウダーは1886年の創業直後から販売し続けてきた同社の「シグネチャー(看板)製品」だ。しかも、赤ちゃんや女性の笑顔を守る製品として売り続けてきたものが、実はその人たちの健康被害の原因になっていたとしたら、同社が掲げてきた信念やブランドに深刻なダメージを与えかねない。