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 米マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボの伊藤穣一氏が所長を辞任するというニュースは世界中を駆け巡った。伊藤氏はデジタル分野で世界的に名が知れた数少ない日本人であり、その影響が多方面に及んだ。

米マサチューセッツ工科大学のメディアラボ所長を辞任した伊藤穣一氏

 米メディアで報道されている通り、少女への性的虐待などで逮捕された米富豪のジェフリー・エプスタイン氏から資金を受け取っていたことが問題視された。同氏が8月10日に拘置所内で自殺し、その後明るみとなった大学や研究機関などに対する寄付リストに伊藤氏の名前があったのだ。

 伊藤氏は8月15日にMITのホームページで、メディアラボや自身の投資ファンドなどで資金を受けていたことを公表し謝罪。9月初めには、今後に向けて3カ月間、話し合う会議を始めた。

 これで事態は収まるかに見えたが、「最初の会議で初代メディアラボ所長のニコラス・ネグロポンテ氏が正直に話してしまい、流れが変わった」(事情に詳しい関係者)。MIT系のMIT Technology Review誌によると、ネグロポンテ氏は「時計の針を巻き戻せたとしてもなお、私は『受け取れ』と言うでしょう」と発言。エプスタイン氏の性的搾取があっても資金を受け取るべきだと解釈された。

 さらに9月6日の米ニューヨーカー(電子版)による報道を受け辞任した。伊藤氏や大学側がエプスタイン氏の名前が出ないよう、口裏を合わせていたことが明らかとなった。

 留任の署名活動をした支持者もいたが、伊藤氏は身を引いた。メディアラボ内の学生や研究者は落ち着きを取り戻し始めているという。伊藤氏は多くを語らずメディアラボを去ることになった。

 ただ、前出の事情に詳しい関係者は、「エプスタイン氏の資金について説明したいことがあったのでは」と語る。

 米国は犯罪歴がある人間、特に性犯罪者に対して厳しい社会だが、伊藤氏はそうした人々の更生を、公正かつオープンに進めていきたいという考えを持っていたという。「そのような考えもあって、仮に問題を把握していてもエプスタイン氏を排除せず、更生を助け、次のチャンスを与えようとしていたのではないか。もちろんだからといってそうした犯罪者からの資金を受け取っていいということではないが」(関係者)